【アンブレラの檻】
夕方からの降水確率90%。
傘を持って家を出なきゃ、そいつはただの馬鹿だ。
つまり俺は馬鹿なわけで。
馬鹿が迎えた放課後は、そりゃもう笑えるほどの、土砂降りだった。
部活の終了時刻に合わせるように、独りだった教室を出て玄関に着いた。
ロックオンは今頃着替えているだろうか。
外は梅雨に相応しい天気。
去年も同じ方法を使った気がする。
せっかくの雨だから。
「……ハレルヤ?」
がらんとした玄関に、薄らと汗を浮かばせてやって来たのはロックオン。
靴を履き替えているロックオンに振り返り、俺はテキトーに返事をした。
「帰って無かったのか」
「見りゃ分かんだろ。傘忘れたんだよ、傘」
きょとん、としたロックオンは、吹き出す様に笑って俺の隣に立った。
そして土砂降りの外を見やり、納得したように「そうか」と言った。
「それで俺との相合傘をお望みか」
「不本意だけどな」
本当は本意だけれど。
ロックオンがにっと笑い、左手に持っていたビニール傘を開く。
傘は俺達より手前に出され、雨をぱたぱたと弾き出す。
「濡れても文句言うなよ」
「ずぶ濡れよりマシだ」
「馬鹿、当たり前だろ」
本当馬鹿だよ。
どうしようもねぇくらい、馬鹿。
玄関にハレルヤがいるのを見た時、心臓がどうにかなるかと思った。
朝、こいつが傘を忘れたのを知ってから、ずっとこういう展開になるんじゃないかって妄想をしていたから。
少しだけ現実なのか妄想なのか、分からなくなってしまったり。
たった数メートルしか変わらない帰り道。
こうして同じ道を行くのは当たり前なのに、どこか不自然な気がして。
「濡れてないか?」
「濡れてる。っつか濡れないわけねぇし」
「文句言うなら出ろよ……」
「出たくても出れねぇ」
ハレルヤのなっがい溜息に苦笑いしつつ、俺はハレルヤを横目で見た。
出たくても出れない、か。
ハレルヤを閉じ込めてる気分になる。
勿論今だけ。
いつか本当に、俺のもの、にしてやりたい。
(相合傘ねぇ……)
その言葉を作った人に訊いてみたい。
檻の間違い、だろ?
end.
【アンブレラの檻/-081223-】
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