【トリックオアハレルヤ!(前編)】
トリックオアトリート!
お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!
ハロウィンの可愛い可愛い決まり文句。
頭の中ではずっと、アレルヤが「トリックオアトリート、トリックオアトリート」と楽しそうに繰り返している。ハレルヤの使命はそのトリックオアトリートを外に発信し、アレルヤの為に菓子を調達すること――そんなことを考えていた時間が、懐かしくてたまらない。
「っくそ……!!」
ハレルヤは地上に設けられている基地内を、全力疾走で逃げ回っていた。
現在基地を徘徊している人間は二人。
自分自身、そしてロックオンだ。
――だ、大丈夫かい? ハレルヤ。難だったら僕が……。
「大丈夫だ。それに、ここでアレルヤと変わっちまったら、逃げたみたいで気にくわねぇ」
そう、とアレルヤが眉を下げて笑ったようだった。
時間制限はガンダムの整備が終わるまで。
それが終われば、必然的に仮想ミッションを行うことになる。
つまりそれまで逃げ切れば――。
「俺の勝ちだ」
ハレルヤは額から落ちて来そうな汗を手の甲で拭い、口元ににやりと笑みを浮かべた。
事の起こりは一時間程前。
基地に到着し、整備終了時刻を確認する為、待機室で会った時だった。
「トリックオアハレルヤ!」
ロックオンがそう叫んだのだ。
ぽかん、としたハレルヤを無視し、ロックオンはハレルヤの右手をぐっと握る。
そしていつもの笑顔で言った。
「ハレルヤ、お前もう十八だったよな? だから結婚できるだろ? 俺としようぜ」
「はあっ!? おま、何言って、」
「トリックオアハレルヤだって言ってるだろ」
ハレルヤを右手ごと引き寄せたロックオンは、空いていた右手でパイロットスーツの上からハレルヤの腰を撫でる。
あまりにも突然のことに、ハレルヤは金目を見開き凍り付いた。
「あーあ、可愛い顔しちゃって……」
驚愕に塗れる金色に一気に近付いた翡翠。
ハレルヤは視界に薄らと落ちてきた影に、ロッ、と目の前の人物の名前を呼ぼうとした。
しかしハレルヤの口からロックオンが発されることはなく、その声はロックオンの口内に吸い込まれ――そうになった。
「……ッ!?」
キス寸前、咄嗟に自由を得ていた左手でロックオンを突き飛ばしたハレルヤは、眉間に皺を刻んだまま茶髪の掛かった翡翠を睨む。
「ロックオン、てめぇ……!!」
「良いねぇ、その挑発的なところ。そういうところも好きだぜ、ハレルヤ」
「……ッ、黙れってんだよ!」
にやにやと笑みを絶やさないロックオンに怒りを覚え、ハレルヤは大きく舌打ちをする。
そして、パネルをタッチしてドアを開けると、そこから足を踏み出した。
「ハレルヤ!」
「黙れよバカがっ!!」
ドアが閉まる瞬間、トリックオアハレルヤ! とロックオンが二度目の決まり文句を言った。
NEXT!
【トリックオアハレルヤ!(前編)
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