【It is not LOVE yet!(前編)】
突然、着艦許可をくれ! と云わんばかりに勢い良く現れたのは、ガンダムスローネのとある一機だった。
「最近よく来るわね、彼」
若いわね、とスメラギは呆れながら着艦を許可する。
トレミーに乗るある人物が目的の彼――ミハエル・トリニティは、暇さえあればトレミーに遊びに来るようになっていた。
歳の近い友人を持てた事が嬉しいのだろうか。
「フェルト、いつも通りね」
「……了解」
フェルトはスメラギに応えるように、一本の通信を入れた。
通信先はトレミー内にある、ミハエルの友人もどきの自室だった。
「アレルヤ、トリニティの彼の送迎をお願い」
「――ミハエル」
「よっ!」
にっとしたミハエルを、きつい視線で迎え撃ったのはアレルヤ――ではなく、ロックオンだった。
「よっ、じゃない。 どれだけの頻度でお前がここに来てるか解ってるのか。ヨハンは何も言わないのか、お前の安直な行動について、」
「毎回毎回がみがみうるせぇなぁ、ニヒルさんよぉ。そりゃ兄貴にだって注意は受けてっし、何度か止められてるに決まってんじゃねぇか」
ミハエルは喋りながら、既に覚えた道程を軽快に進んで行く。
ロックオンは「そうかい」と言い、無言でミハエルの後を追った。
そんなロックオンに見向きもせず、ミハエルは小さく小さく呟く。
「今日こそ教えてくんねぇかなぁ、」
名前、を。
もう一人のアレルヤに、名前を教えて貰いたい。
それが、ミハエルがトレミーの常連となった、ただ一つの理由だった。
以前、話し合いの為トレミーに兄妹と訪れた時だ。
スメラギとまともに話し合いをしていたのはヨハンだけで、ミハエルとネーナは各々の思うがままにトレミー内を探索していた。
偶然ミハエルが展望室に行くと、誰かと話すアレルヤの後ろ姿に出くわしたのだ。
しかしあの時ミハエルが出会ったのは、金眼で髪を右に分けたアレルヤだった。
一瞬だけ見たアレルヤは、アレルヤでありアレルヤではなかった。
その後アレルヤを問い詰め、バラすと脅しを掛ければ、彼は「彼は僕じゃない。性格も何もかも全く違う、もう一つの人格なんだ」と白状をした。
名前を教える事は、もう一人とやらに拒まれた。
しかし、彼はミハエルを暇潰しの相手として認識したらしく、ミハエルが「出て来いよ」と頼めば素直に現れるようになった。
アレルヤの自室の前まで来て、ロックオンはわざとらしく長い溜息を吐いた。
「ったく……。本当はアレルヤと二人きりなんて、俺は許したくないんだが――」
「アレルヤが良いっつってんだろ」
「悔しいけど、な」
ミハエルは、当たり前だ、と内心思った。
もう一人の人格を知っているのは、恐らくミハエルだけ。ロックオンは“彼”を知らないから、アレルヤがミハエルと二人きりになっている事実に悔しがっているのだ。
「じゃあ俺の監視は此処までだ。さっさと帰れよ」
手をひらひらとしながら、ロックオンは通路を進んで行った。
少し先に見える自室に入っていった彼を確認し、ミハエルは目の前の自室のドアを開けた。
「よーっぽど暇みてぇだなぁ? そちらさんはっ」
「そうそう暇でよ――って、んなわけねぇだろ」
いきなり嫌味たらしい言葉を投げ掛けて来たのは、アレルヤ――いや、もう一人、だった。
苦笑いで一歩踏み出せば、真後ろでドアが閉まる音がした。
同時にどくんと心臓が高鳴って、ああ俺って超馬鹿だ、と心底思った。
さて、名前を教えて貰おうか。
金眼野郎。
What is your name?
It is taught in the next!
【It is not LOVE yet!(前編)
/-080209-】
|