赤い瞳に見下ろされたとき、恐ろしさから身体が固まった。かたまってしまったのだ。 そういう反応をされたら彼が傷付くということは、分かっていたのに。 (だって、私も) .さかさまのにじ. びくりと、先ほど身を縮ませたリデルが、だが、一歩魔物に近づいた。普段の内気な彼女からは想像できない行動に、向かいに立った紅い目のクルークが細く、細く瞳を歪ませる。 その動作にリデルはしかし、今度は怯えを外に出さなかった。 「お前も」 魔物が空気を震わせる。その威圧感のある声はしかしどこか震えていた。今、目の前でまっすぐに此方を見上げてくる少女を見下ろす。 彼女だけではない。彼女の友人たちも同じ、目を逸らすことなく見てきた、自分を。 正面から。 そのことが不快だった。 「……お前も、恐くないとでも言うのか」 確かに彼の今の身体は、彼女らの友人をベースにしたものであるから、自分本来の外見ほど異質はない。だからかもしれないが、魔物である自分が封印から出た後に出会った者たちは、自分を恐怖の対象とは見なかった。 あろうことか、揃いも揃って恐くないなどと言い出したのだ。 それを認めたくなぞなかった。 だって自分は見た目が恐ろしいから封印されたのだ。 なのに今更になって恐くないなどと。 それならば、何故、自分は封印されるに至ったというのだ。 大方この気の弱い少女も言うのだろう。こんな気の弱そうな少女にまで言われるなんて自分もずいぶん舐められたものだ。 どいつもこいつもなんの気休めのつもりか。 そんなことがあって、たまるか。 それならば、何故! 「………恐いです」 しかし、魔物の想像とは逆に、リデルは声を震わせてはっきりとそう言った。 「……何?」 「恐いです。私は、クルークさんの様で違う、あなたが」 見れば少女は確かに震えていて、少しばかり青い顔をしている。それでも視線は逸らさない。 それは今までにない反応だった。 恐いのに逃げない、その矛盾をはらんだ少女に、魔物が眉を顰める。それにリデルがもう一度、かたまった。 「恐いなら、何故お前は私に近づく」 「…だって、恐いからって拒んだら、あなたは傷付きますよね」 私もそうです。言ってリデルは頭に上げた髪を解く。ぱさりと、長く伸びた緑の髪、その下から現れたのは、細く長いまっすぐに伸びた、角。彼女は続いて長い袖をまくると、そこから鋭い爪の生えた手が出てきた。 鬼のようなそれは、少女がコンプレックスにしているものである。 それを魔物に晒して、彼女はもう一度彼を見上げた。 「恐いですか?」 「……否」 「…私は恐いんです。人と違うこの身体が、いつか誰かに疎まれるんじゃないかって」 友は恐くないと言うけれど。 でもそれでも、この外見が人と異なり、恐怖の対象となるのは確かなものなのだ。それだけは変えようがない、どんなに隠しても。 本当は隠したくなんてないことも。 そのことは自分が一番良く知っている。認めなければならない。 恐いのは、恐がられることではない。それによって避けられることだ。 だからわかるのだ、だから。 「あやさんの外見は恐いです。多分、その上であなたのことを知らないといけないんです」 恐いと認めたうえで、それでも本質を、と、声を震わせて言った少女に、魔物が瞳を見開いた。今までに無い反応だ。 それは、人と違う外見をした気の弱い彼女だからこそ言う言葉だ。 魔物は瞳を揺らす。 リデルは震える手を伸ばして魔物の頬に触れる。なぞるように伸ばした手、長く鋭い爪が計らずとも人たる柔らかい肉を裂いて、紅い血が一筋落ちた。 リデルの瞳がまっすぐに捕らえる。思わず背筋が凍った。 「……私は恐いです。あなたは、恐いですか」 「…………、…ああ」 長い間を置いて魔物が口を開く。リデルはここで初めて、どこか安心したように笑顔を見せた。 「なら、同じですね」 それは、泣きそうに柔らかくて暖かい微笑だった。 −−−−−−−− ← −−−−−−−− 状況とかさっぱりわからないんですけど怪×リデルって無しですかとか思ってとりあえず書いてみた勢い文。非人間同士通じるものがあったらいいなとか思ったんですがリデルのキャラを間違えてます、こんなに強い子でいいのだろうか。リデ関係の漫才デモを見る限り彼女はこんな考え方してない気もするorz ていうかこれ良く見たらリデ怪じゃないか? まぁいいか。 [管理] |