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Red 紅き守護神獣

出会いは唐突。
翡翠の双眸。
緋色の頭髪。
紅い魔獣を従える、一人の少年。
その様は、儚くも美しかった。
いや、儚いからこそ美しいのかもしれない。


青年の名はガイ。
好印象をもたらす表情が特徴の若者だ。
短い金髪と青い瞳も、それを担っている。
しかし、鋭い雰囲気を欠くことはない。
金獅子のような人物でもあった。
ガイの相棒といったら、腰に提げる愛剣のみ。
あと、少しの食料。
その彼が小さなこの諸島に訪れたのは、つい先ほどだ。
総人口が少ないであろう、小さな島だ。
持ち前の笑顔でいくつかの民船を乗り継ぎ、やっと到着した。
太陽が水平線から現れ、そして没した相当な回数だ。
大陸から、かなり離れている場所だ。
ゆえ、少しばかり文明も未発達だろう。

「さすがに船での長旅は疲れたな…」

無事の安堵ではなく、本心であった。
ガイは、深い溜め息をひとつだけ吐いた。
その溜め息すら、閑散とした木々の合間に吸い込まれていった。
周囲は緑一色。
異常なまでに、静寂な森だ。
この森林は、まったく人の手が入っていない。



処女地というべく場所なのだろう。
自然の乱雑さで、鬱蒼(うっそう)としている。
森自体が人間の侵入を阻んでいるかのようだ。
また、何かの存在に畏怖しているかのようだった。
このような場所に、ガイ以外の何者かがいるとは考えにくいにせよ。

無音の中、ガイは腰を下ろす。
背後の大樹に、身を預けた。
何気なく、座椅子代わりの樹木をガイは見上げる。
そびえ立つ、巨木。
まるで、静寂を破ろうとする者を監視しているかのようだった。

ガイは、ゆっくりと目を伏せた。
七年前の戦争の名残も落ち着き、傭兵の必要性が失せてきた。
世界情勢も穏和となり、護衛の依頼も激減した。
ゆえ、未だ戦火の残り火がありそうな土地を求めたのだ。
人の不幸を食い物にするのは、自ら。
先ほどから放たれるのは、自嘲じみた溜め息だけだった。
これも生きる術なのだと、ガイは自らに言い聞かせる。

周囲は黄昏時。
日は暮れかけているため、近辺が漆黒に包まれるのも、そう遅くはないはずだ。
しかも、森は視界が悪い。
そのような状況で、地の理もない者がさ迷えば、生命を落としかねない。
陽光の下でないと、生物は生きられないのだ。
幸いと、ここは未開地だ。
夜盗といった、人害は皆無だろう。
何故だか、魔物の気配もない。
心寂しいので、炎を絶やさないようにする。
明日に備え、早めの休息を摂るべきだ。
そのような折だった。

「…?」

物音がした、ような気がした。
幻聴かと疑うほどの、小さな物音。
何かの落下音のようでもあったが。
沈黙の森では、異常事態であった。

「気のせい、か…?」

しかし、それで片付けてしまっては、傭兵としてはあまりにずさんだ。
独り身である以上、外部の様子を明瞭にしなければならない。
過度とも言うべき、警戒心は必要だ。
油断や傲りは、命取りとなりかねない。
もし、危険要因ならば、排除も考えなくてはならない。
その危惧を、ガイはよく心得ている。
余分に、越したことはない。
それくらいが丁度良いくらだ。

ガイは鞘に手を伸ばし、抜刀する。
抜き身の剣を携え、立ち上がる。
神経を琢磨し、外界に対して敏感となる。
勿論、警戒を怠らない。
慎重に音源へと足を運んで行く。
樹木から開けた場所に出たときだ。
一際目を引いたのは、朱色。

「あれは…!」

倒れていたのは、少年。


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