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紅色蝶


『あの馬鹿が無断で使ったんだ。…後で閣下にお仕置きしてもらわないとね』

始まりの言葉。
すべての元凶。


湿気を帯びた、暗鬱な空気。
水滴の音、鎖の音。
暗い、牢獄。
甲高い音に、アッシュの意識は覚醒する。
石畳を歩く、ブーツの音だ。
誰か、来る。
逃げようとも思わなかったが、そもそも逃げられない。
鎖により、拘束されていた。
金属の無骨な輪たちが、その身体を戒めている。
しかも、すべての衣服を剥がれており、全裸であった。
逃走状態には、欠ける。

ぼんやりとした倦怠感を引きずりながらも、アッシュは顔を上げる。
そして、翡翠色の双眸で眼前を認知した。

「気分はどうだ? アッシュ」

現れた、男。
上官とも言おうか。
研ぎ澄まさた武人が纏う、気高くも鋭い雰囲気があった。
ヴァン=グランツ。
それが彼の名前。



周囲は寒々としているのに、アッシュ自身の身体は熱かった。
これから、何が起こるかが予測できていたからなのか。

「…ッぅ」

ヴァンにより、乱雑に前髪を掴み上げられた。
互いの吐息を感じられるほどに、近い顔面。
前頭部の痛みを凌駕する、威圧感が生じる。
それは、前の男に恐怖を抱いている証拠。
だからこそ、アッシュは己の自尊心を保ちたかった。

「私に断りもなく、コーラル城を使用したそうだな?」

「知ら、ねぇな…」

アッシュがそれを認識したのは、そのときだ。
左側の肩を貫いたのは、灼熱感と異物感。
また、危機感。
左肩を、剣先が貫通していた。
一拍遅れ、神経を迸ったのは激痛。
アッシュの仰け反った喉は、呻きを絞り出した。
牢獄に反響し、音素と混じり合う。
左肩は、壁に縫いつけられていたのだ。
鋭利な刃先は、人体の構築物をものともせず、貫通を果たしている。
利き腕を刺さなかったのは、騎士団を総括する者の配慮だった。

その様は、まるで蝶。
羽根を拘束された、美しい紅い蝶。
標本にされ、目で楽しむための道具。

部下を刺し貫いたまま、ヴァンは剣を回転させた。
ぐちゃ…、という肉の悲鳴。
アッシュの痛覚を激しく刺激するのは、断続的な激痛。
傷口は抉られ、新たな血が多量に流れ出す。
苦痛により、アッシュは苦鳴を放つ。
筋繊維を損傷したのか、左腕が脱力した。
出血量は増すばかり。

「──素直ではないな、アッシュ」

「てめぇ…、ぅ゙あ゙…!!」

そして、引き抜く。
骨格と神経を斬り裂かれながも、アッシュは解放された。
その通称名の通り、鮮血が溢れ出す。
紅い彼に似合う色。
左腕は、血みどろだ。
頭髪の流れと血の流れは混合し、境目が曖昧な紅を生み出す。
その様すら、美麗だ。

「紅い…。美しいな」

「……っ、ぁ…」

負傷した左肩に、顔を埋められた。
貫通した傷口を這ったのは、舌先。
赤い流れを、それでせき止められる。
痛いはずなのに、心地良さも生じていた。
一度だけ、アッシュは身を震わせる。
翡翠の双眸の中の瞳は、収縮していた。
その感覚の正体を、よく知っているから。

ヴァンは血雫が滴る剣を、後方に放り投げた。
金属音は、牢獄の静寂を打ち壊す。
途端、甘美な虚ろからアッシュは引き離された。
現実を突きつけられる。
冷酷な双眸が、紅を射抜いていた。

「さて、お前の主人が誰であるか、再認識させてやらねばな…」


◇◇◇◇◇


「ぁ、ぁあっ…、ゃぁあ…ん!」

ざわめく鎖の音。
粘着質な水音。
荒い息遣い。
それらに勝る、大音量の嬌声。
今、牢獄を充たすものたち。

冷たい壁に手を付き、アッシュは後ろから犯されていた。
無論、左肩は止血されていない。
ただ、太くて熱い肉棒に、秘部を穿たれている。
その都度、肉の内壁を巨大な質量が擦過していった。
よって、アッシュの素肌の脚は震え、起立がやっとの状態だった。
その耳朶が、背後の雄の息遣いを察する。

「後ろだけで感じるようになったな、淫らで可愛い私のアッシュ」

「はぁ、ぁっ、あぁぅ…!」

揺れる長く紅い髪は、その背で左右する。

耳朶に這わされる、舌。
そのまま、ヴァンの舌端は首筋へと下っていく。
微量の電流は、アッシュに甘い痺れを残していった。
不快でしかない行為を、高揚させていく。
ぴり…とした、ある一点への僅かな痛みにより、それを認識する。
──噛みつかれた。
正しくは、『痕』を付けられた。
そこには、赤紫色の鬱血が残っているだろう。
自らを犯す、この男の所有物であるという証。
ガラス張りの箱の中、ピンで止められた紅い蝶という印。

「ふぁっ、ぁあ…ぁァ!?」

最奥を突かれたときだ。
一際高音で、アッシュは鳴いた。
その反応をほくそ笑んだのは、ヴァンだ。

「お前の良いところは、ここだったな」

「ゃ、やめっ、ぁあぁッァ…!!」

行為に興じるなど、断じてアッシュは認めたくなかった。
『欠点』をさらけ出すなど。
しかし、その自尊心すら残酷にも砕かれることとなる。

「…あぁ、あと『ここ』もだな」

「ゃぅ、ぅ゙ぁッ…がっ…!!」

快楽の嬌声が、苦痛の絶叫へと変じた。
その原因は、アッシュの左肩。
血が、吹き出している。
その傷口を攻め立てるは、ヴァンの五指。
骨太な逞しい指先が、アッシュの左肩の内部をかき乱していた。
切断された血管が刺激され、凝固しかけていた血液が噴出する。
非常に強い握力を込められ、脱臼してしまいそうなほどの圧力がかかっている。
その力を以て剥き出しの神経に触れるのだから、生み出される激痛は凄まじい。
損傷部位を抉られ、張り裂けんばかりの声でアッシュは絶叫する。
白い喉が、高く反る。
左腕を拘束する鎖に、生命の紅が伝う。

「お前は苦痛を好いているからな。こうされるのが好きなのであろう?」

「ぅあ゙! あ゙ぁ゙、ぁァ…!!」

アッシュは額から脂汗を潤(ほと)びらせ、呻く。
限界まで開眼し、悲鳴をひきつらせている。
だが、淫靡たる腰部の律動は止まっていない。
嬌声と絶叫がない交ぜとなった、扇情的な悲鳴と化している。
先走りを零し、汚らしい床をさらに汚している。
絶頂は、すぐそこだ。
左肩の激痛も、催淫でしかなかった。

「ひぁ…ッ、ぁああっぁ──!!!」

同時に達する。
アッシュは、ナカに種子という名の熱湯を注ぎ込まれた。
また、彼自身、対面する壁を白く汚した。
雄を引き抜かれ、アッシュはくずおれる。
また、急速に左肩の激痛が遠退いた。
鎖は喚き、床は乱暴にその身を受け止めた。
憔悴したその顔は、蒼白であった。
それにより一層、紅が映えていた。

「…哀れな者たちだ、『ルーク』は」

「…」

紅い蝶は翼をもがれ、か細く鳴いた──。


END

ヴァン×アッシュなんて生産してしまったー!!
でも、嫌いじゃないんですよ。
ということは、好き…?
上司と部下の関係、小生意気な特務師団長を権力と力でねじ伏せるんですよv
大人しいアッシュというのも良いv



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