「悪ぃ、カイト」
ミクに呼び出されて、カイトの元へと走って来た。
カイトは、俺が来るまで先生のお小言を聞いていたらしく、ぐったりと廊下に座り混み、俺をチラリと見て苦笑いを浮かべていた。
「全く…誰かさんがサボってばっかだったからコレを貰うのが大変だったよ」
「コレって?」
俺が聞き返すと、ミクが盛大な溜息をついた。
「文化祭のライブ許可書よ!」
「あー…」
ヒラヒラと、カイトから奪った一枚の紙切れをこれでもか、と見せてくる。
「全く…しっかりしてよ?」
正直、文化祭なんて頭になかった。去年やったライブは、初めてにしてはかなり盛り上がり、俺らにファンがつくくらいになった。
そんなだから、去年から、来年のライブはどんなライブにしようかだなんて張り切っていたのだ。
「今年はばーんと行くわよ!」
「でも、しっとりバラード系もよくない?」
「嫌よ、今年はカイトが頭に花火つけて盛り上げるんだから!」
「ちょ、火気厳禁で」
「えー?つまんない」
何も発さない俺を余所に、ミクとカイトはライブについて語り合っている。
でも頭の中は、正直先程聞こえた声の事でいっぱいだった。
何で、こんなに惹かれるのだろう。
けして、声が綺麗だった訳でもないし。聞いた事があるメロディな訳でもない。
でも何故か胸がズキズキと痛むような不思議な感覚。
考え事に熱中しすぎ、スルリと、俺の右手からケースが落ちた。
カシャーンという音と共に、中に入っていた譜面が廊下へとぶちまかれる。
落ちた音に二人はビックリしていたが、譜面を見てミクがこう言った。
「何?レン、曲が出来てるんなら言いなさいよ」
どれどれ、と言いながら二人が拾った譜面へと目をやる。
まずい、
非常にまずい。
「見んな!」
廊下中に俺の声が響く。
大声を出した事、思いの外声が響いたこと、ミク達に譜面を見られたこと、の羞恥心で俺の顔は真っ赤だったと思う。
二人は、よほどビックリしたのか素直に譜面を渡してくれた。
「まったく、大声出さないでよ」
「勝手に見てゴメンな」
謝るカイトを見て少し申し訳なくなる。譜面を受け取ると俺も悪ぃと謝罪し、頭を冷やすと言う名目で再び屋上に行く事にした。
「えぇー?またサボり?」
また俺が怒られるとカイトがぶつくさ言っていたが。
その裏でミクが成る程ねと呟いていた事を、俺は知らなかった。
モドル