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中学生になって、初めて“彼女”と呼べる存在が出来た。俺の好きなタイプというのは、物(主に食べ物)をくれるヤツだが、彼女のことは一目惚れだった。入学式の時に、少しすれ違っただけだったが、心に惹かれるものがあった。運命の出会いとは、まさにこのことだと思った。

二年経ってやっと彼女を見つけて(同じクラスになっただけだが)、彼女を知っていく内に、もっともっと彼女に嵌まっていった。

三年生への進級前に告白をして、彼女は真っ赤になりながら微笑んでくれた。

わたし嫉妬深いけど良いの、と聞いてきた彼女に、そんな思いさせないと答えて付き合いはじめた。




「ブン太くん!」
「…あ?」




不機嫌な声を出してしまって、慌てて口を塞ぐ。呼び掛けてくれたクラスメートの女は、少し怯んでしまった。




「…なんか、ブン太くん、高校生になって変わった。」
「はあ?そんなことねぇよい。」
「いや、あの子がブンちゃんの前から消えた時からじゃろ?」




うるせえ、と間髪を入れずに仁王に毒づく。
縁とは嫌なもので、中三から高三になった現在まで仁王とは同じクラスだったりする。




「あの子…って、もしかして彼女?!」
「ブン太くんに彼女とか、やだ!」




仁王の発言に、周りにいた女達は一斉に騒ぎだした。鬱陶しいとは思いつつも、表情には出さないようにつとめる。




「…仁王が言った話しちゃんと聞いてたのかよい?彼女は俺の前から消えたし。」




言い切れば、女が差し出してきた飴を拝借し、口の中へ入れた。ほんのり酸っぱい、これはレモン味か。




「えー、それって別れたって事なの?」
「なんでなんでーっ?」




流石にもう相手するのが面倒になって、トイレという名目で席をたった。仁王が隣りで小さく笑ったが、その笑みは俺をけなすような笑みだった。



彼女が何故消えたか、そんなのは考えずともすぐに答えは出る。

中三に進級すると、部活が急に忙しくなった。でもこれは、予測出来なかったことではなかった。
レギュラーになって、初めての大きな大会があったから。『常勝立海大』の名に恥じないよう、毎日毎日夜遅くまで練習づけだった。完全下校時刻なんて、とっくに過ぎていても練習。彼女を待たせていても、先に帰ってもらって。朝は早くから練習、休日も早くから練習。

嫉妬深い、その言葉の裏に“寂しがり屋だ”と隠れていたのを理解していたのに、寂しい思いをさせ続けた。

その結果と言っては難だが、関東大会まで居てくれた彼女は、急に姿を消した。

学校内をいくら探しても、彼女の家まで訪れても、彼女を見つけることは出来なかった。

彼女が座っていた席は、空教室へ移動され、彼女が住んでいた家には、新しい住人が越して来ていて。


彼女が消えたという不安の中、全国が始まった。赤也の為に負けた試合もあったが、それなりの力を出せていたのに。

しかし、決勝で油断した。

結局、彼女という大切な存在を無くしてまでやったテニスの大会は、三連覇することは出来ずに終わった。


重い扉を開けて、屋上の外へと出た。

トイレは嘘。これ以上、古傷を傷めたくは無かったから。

壁に身体を預けながら腰かける。何にも邪魔されないこの空間は、風が通って心地よい。


テニスを嫌いになった訳ではないけど、熱心に取り組むことは出来なくなっていた。他の皆は、それぞれの高校で活躍しているらしいが、俺にはそんな過去があるから。

自分は今帰宅部だから、誰を悲しませることもない。


もしも話はあまり好きな方ではないが、もしもと願ってしまうことが、ひとつだけある。もしも、もしもキミがまた俺に会いに来てくれたならば、俺はなんだって差し出そう。

口の中で溶けて消えた飴のように、彼女はもう二度と俺の目の前には姿を現さないだろうけど。


レモン味の甘みが、妙に酸っぱく感じられた。







たとえばの話、あの時僕の前から居なくなった君がもしもまた抱きしめに来てくれたなら


(俺の全てを捧げよう。)









企画:セカイのてを君にさまに提出。

高校生設定とかいうまさかの設定、すみませんでした。



2008.12.20. 藍


 


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