ストロベリーオンザショートケーキ
夕方頃、万事屋に電話が入った。
新八は買い物、神楽は遊びに行ってしまい俺1人だった。
「はい、万事屋銀ちゃん」
「おぉ、金時か、ワシじゃ。3日したらそっちに行くき、空けといてくれ」
「ちょ、おま」
「ほんならの」
電話がプツンと切れる。
どうやら辰馬が来るらしい。
うぉぉぉぉぉ!!!
連絡も寄越さず随分と放ったらかしにしときながら開口1番相変わらず名前を間違え、一言も謝りも無しに「空けとけ」だけだと!!俺は都合の良い男か!!
「クソまりも!」
辰馬が来るまでの3日間、普段はあんまり洗わない足の指の間まで念入りに洗った。
「あのカミナリさま頭やろう!」
3日間、リンスの後は時々しかしなかったコンディショナーで念入りに頭に効果を成す。
「頭に鳥が住み着かれて卵を生み付けられろ!」
3日間、ヘチマで気になる部分は良く擦った。
「うっさんくっせぇグラサン掛けやがって!」
3日間、背中も垢擦りで良く擦って洗った。
「ブラックホールに吸い込まれかけて九死に一生を得ろ!」
約束の日。
タイミング良く神楽は妙と「女の子の会」などとチャラついた事をするようだ。
まぁ新八は放っておきゃ自分で何とか行動するに違いない。
いざとなりゃ長谷川さんのとこに転がりこめば泊まる位はさせてくれんだろ。
「今度は間違えんと来たきー」
朝の9時頃。
チャイムも鳴らさず辰馬は玄関を開け、俺の返事も聞かずにズカズカと入ってきた。
もしも俺が全裸で全力のオナニーでもしてたらどうするつもりだ、クソまりも。
(まぁ玄関の鍵は掛けるけど)
「きんときー」
居間に入ってくるなり名前を呼ばれるが、俺は気にせずに手の爪を切る作業に戻る。
本当は今すぐにでも抱き着いて唇が腫れる勢いで吸い付きまくってキスをかましたい。
「…土産は?」
「スワップ星だかスイッツ星だかのボンボンブランちゅう店のケーキ買うてきたき」
「最近テレビで紹介されてたな」
「ほうか、旨そうやったきの、買ってきたんじゃ」
引き出物か!って位にデカい紙袋がテーブルに置かれると辰馬が隣に勢い良く座り、ソファが軋む。
チラリと顔を向ければ目が合ったが直ぐに反らしてやった。
「食うじゃろ?」
「食う」
紙袋から箱を取り出されると、中から真空パックになるケーキの詰め合わせが取り出された。
真空パックを破れば詰め合わせの中のショートケーキの上に、こんもりと乗る生クリームがプルン、と震える。
ウィンドウから取り出されたばかりの様な状態で現れた。
…本当、天人のおかげで皮肉にも食文化も進んだわ。
「ほりゃ」
詰め合わせの中のプリンアラモードを取り出し、俺に渡してきた。
俺はソイツよりもショートケーキが食いてぇんだが。
受け取りビニールを剥がしスプーンなんて上品なモンは使わずにそのまま直接口でいった。
「…スプーン使いとうせ」
箱からスプーンを取り出すとボンボンブラン、と刻印された金属のスプーンが表れる。
「プラスチックじゃねぇのか」
テレビの紹介じゃ高級そうなところだったが、スプーンまで独自のものまで有るとは恐れ入る。
しかし使うのも面倒臭く、やはり口でモリモリいった。
2個目は目当てにしていたショートケーキ、と思っていたが辰馬が既に半分食っていやがる。
「…そのショートケーキ、俺が狙ってた」
「ほうか?申し訳ない事したの」
サングラスを外してニコニコと笑みを浮かべる、とケーキを一口頬張り生クリームまみれの唇でキスしてきた。
久しぶりの辰馬の唇、しかも大好物の糖分まで付いて。
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