「なぁ変態」
「どうしたロリコン」





そうして間に散る火花。





.挑発、誘惑、祝酒.
9/16〜敬老の日〜






コホンと軽く咳払いしたサタンに、シェゾが元々細い眼をさらに細めて視線を払う。
散った火花が霧散して、確かな棘を持って射抜いてくる視線を瞬きひとつで返すと、まもなくサタンが口を開いた。

「何だその態度は、敬老の日なんだから敬わんか」

そういって軽く口を尖らせる子供みたいな様子に、シェゾは何が敬老だとも思ったのだが、それ以上にサタンのこと行事に関する順応性の高さに舌を巻いた。

先ほどまで私は老人ではないと叫んでいた若作りの言葉とは思えない。
開き直りともいうのだろうが、ただでさえ鬱陶しいその尊大な態度が、輪をかけてでかくなっている。

何はともあれこうなるとこの魔王様は厄介だ。
何かと派手好きで注文好きであれこれちょっかいをかけてくるのが好きなのだから。

「何で俺が貴様を敬わねばならん」

シェゾはその矛先が自分に向きかけているのを経験から敏感に感じ取り、魔王様のお好みの大仰なそぶりで、はんと、鼻を鳴らして見せた。

「敬老を笠に着るならお門違いだ」

そう。敬老の日を笠に着るなら、シェゾとてその恩恵の受け手側の立場にある。彼こそ見た目は若いままだが、実年齢は人間で言えば既に墓の下で当たり前の年齢を有しているのだから。

「強要するからには貴様も俺を敬うつもりはあるんだろうな?」

そう言って瞳に挑発の色を込めれば、サタンもその挑発に応じるように口の端を吊り上げた。
挑発に挑発で返すのが近頃のやりとりになりつつある二人のいつもの光景だった。

「たかが180年しか生きていない若造がよく言う」

とはいえ、お互い元々舌が達者な方ではない。むしろ言葉よりは力で強引に場を収めることの方を得意とする二人である(もっとも、サタンの方は口のほうもそれなりに達者なのだが、いかんせんシェゾの舌回りに問題がある)
結果お互いが向き合った後に起こるのは、視線を交わした後にでる火花とは比べ物にならない規模のあれそれだったりするのだが。

サタンが静かに右手を上げる。
そして手のひらをゆっくりとシェゾに向けて、口を開いた。

「……じゃ、なくて」
「は?」

予想外の言葉に固まるシェゾに、サタンは視線を一度向けてから、苦笑して手を下ろす。
そうして肩をすくめると、瞳を閉じた。

「…年寄りなら年寄りらしく、のんびり酒でもどうだ?」

せっかくの敬老の日だぞ、と。何もこんな日に身体を酷使することもあるまいと笑うサタンを見送って、シェゾはしばらく視線を泳がせた。

年寄りといわれると抵抗があるのだがまぁしかし、サタンの言うことも一理ある。別に見返りなしにこの桁違いの魔王にくって掛かるメリットなど無いわけで、それなくして見返りがあるならそれに乗った方がいい。

何より魔導師というやつは基本的に年齢にかかわらず酒好きなのだ。魔導力を回復するのに酒が常用されているほどに。
さらに言うならサタンの貯蔵のものは言うまでも無く良質だ。

誘われて断る道理は、なかった。

「……安物なら断る」
「案ずるな、せいぜい敬ってやるさ、闇の魔導師」

それでも一応注文をつけたら、秘蔵だと血色の瞳を楽しそうに細めるから、シェゾは頷く代わりに一歩、サタンへと踏み出した。そうして、芝居がかった動作で一礼。

まぁ、たまにはこういう日も必要だろう。



「そのお誘い、お受けいたしましょう」

そう、喉の奥で囁いて、誘われるままに手を取った。

「感謝いたしますよ、サタン様」


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.BACK.
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敬語萌えとかぬかしたらカタストロフされますか。


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