それは、人間だった。 「これは…当たりと見るべきか、外れととるべきか」 薄く瞳を細めた王は、死臭の漂う倉庫でしかし、愉しげに笑って臣下に問うた。 愚かにも我が魔族に戦争をしかけてきた人の国。既に陥落した城の宝物庫で見つけたのが、それだ。 箱。それも、大きな。 厚い石で出来た、装飾のない箱。 あるのは中の魔導力が漏れないように貼り巡らされた封印符と、人の手で容易に開かれないように張り巡らされた、鉄の鎖。 見るだけで分かる。中にあるのは、相当大事なものか、あるいは、相当、危険なものか。 それ故に長年(あくまで人間換算だが)開かれることが無かったのだろう、埃を被った、それ。 しかし魔族の王たる自分には別段恐れるものではないので、試しに開けてみた。 果たして人がひとり入るのではないかというそれから出てきたのは、本当に人だったのだ。 .始まる前の話. 白い肌、銀糸の髪、長い睫毛、人間にしたら出来すぎた容姿だ。それは魔族でも美しい淫魔、下手したら己にすら並ぶ。そもそもこんな箱に人間が入っているのすら可笑しいし、何より箱の状態から察する年月と、中の人間の年齢とが、合わない。 だが、生きている、確かに。 箱の外に貼られていた封印符がソレの全身に、拘束具の様に巻き付いている。そこから確かに魔導力と、人間独特の生命力が漏れているのだ。 「何だと思う?コレは」 王はもう一度だけ問うた。臣下は微かに瞳を細めて。 「確か、100年程前に今代の闇の魔導師が消息を断っていますが」 「…ほぅ」 なるほど確かに闇の魔導師なら、人間でも延命していておかしくはない。ここに封印されている経緯は不明だが、理由は納得できる。何しろ闇の魔導師は、魔族並みに人間に恐れられているのだから。(同じ人間なのに可哀想なことで) だが、今代のはまだ若かったはずだ、臣下が記憶しているのは意外だった。 「…珍しく詳しいな」 「いえ、それは彼が美しい容姿の持ち主でしたから」 「…、この道楽者が」 「習性ですよ」 優雅に笑って見せた臣下に、王は軽く嘆息した。そろそろ自分もこの臣下の生き方を見習って、道楽にでも手を伸ばすべきか。 例えば。 「では、どうなさいますか」 「……封印を、解いてやろう」 その言葉に少しだけ、臣下が驚いた様に目を開いた。闇の魔導師といったら、後々魔族の命と地位を脅かす者に成りうる存在だ。 今、このまま殺しておいた方が。 「なに、ちょっとした道楽だよ」 王はくつりと笑って箱の中の人間を見下ろした。人形のようなそれはまだ、その瞳を閉じたままだ。 「これがどう育つのか、お前も楽しみだろう、インキュバス」 「…サタン様がそう仰るのなら」 彼らが正式に出会う、60年程前のはなし。 −−−−−−−− .BACK. −−−−−−−− シェゾが180歳にしては精神年齢が幼すぎるという件に関して一時期、封印かなんかで外界と遮断されていた〜的な設定があったような無いような気がしたので拾って捏造してみた。 気が付いたらサタン様とインキュが大活躍(笑) 因みにサタン様も昔は魔王っぽい設定だった筈なのでそれも拾ってみた。 同人界ではもはや常識のインキュ両刀設定も採用してみた。 あ、なんていうかよく分からない布でグルグルの拘束シェゾが描きたかっただけで。 [管理] |