※擬人下化ネタ※






「先輩から離れなさいよこの変態!!」

もはや聞きなれてしまった声、聞きなれてしまったフレーズにシェゾは振り返りもせずにため息をついた。
いつもの通りこの声は黒服でワイン色の髪を流したあのオカルト少女だ。
懸命も一途も結構だが、何かという度にちょっかいをかけてくるのは如何なものかと思う。大体離れなさいよと言われても、そもそも今日はその彼女の言う先輩とやらに会ってすらいない。

このまま無視してもよかったのだが、流石にこんな大通りで変態だの叫ばれ続けるのは居たたまれなさ過ぎるので、シェゾは渋々振り返る。
少女のしつこさもそうだが、つくづく自分の巻き込まれ型の運の悪さには呆れるものがある。

そして、己とは軽く頭3個分は違うだろうといったような少女を見下ろして、だれが変態だ、言いかけた。そのとき。

「フェーリから離れろこの変態!!」



響いたそれは、聞きなれない声だった。



.言葉にまつわるETC.







褐色の肌に甲冑、合間からチラリと見えるは金の髪に金の瞳。先ほどシェゾにむけて吼えた口からは八重歯が覗いた。

がたいの良いガッチリとした体格は、魔導師の多いこの世界では珍しい。
しかし何より珍しいのは、パッと見ただけでも190を越えているのでは無いかという身長。長身であるシェゾが見上げるのは、記憶しているだけでも精々2、3人程度しかいない。

何処かで見たことのあるような、しかして確実に知らない人物だ、目の前で吼えたのは。

「………知り合いか?」

フェーリを庇った、ということはフェーリの知り合いだろうと、シェゾが少女に視線を移すと、しかしフェーリは現れた人物に一瞬怯えたような視線を送っただけで、直ぐに首を振った。

「し……知らないわよこんなの!!」

こんなの、呼ばわりされたことに傷付いたか、それとも助けにきた筈の人に知られていなかったことが悲しかったか、助っ人(面倒だからこの際こう呼ぶことにする)は明らかにショックを受けた表情を浮かべて項垂れる。

明らかにフェーリを助けにきたのだろうが、しかしフェーリの様子からしても知らない人であることは確実。シェゾは暫く考えてからひとつの結論を出した。

「ストーカーか…」
「ちょっと止めてよ!!変なこと言うのは……」
「ストーカー違う!!変態お前!!」

ぼつりとシェゾが呟いた言葉に過敏に反応を示すフェーリと助っ人。その時の助っ人のしゃべり方がやや不自然だったがそこはまぁ気にしないことにした。(言葉足らずはシェゾに言えた義理でもないし)

ぐるぐると喉をならす獣の様な動作に何かひっかかるものがあったが、それも考えないことにした。

それよりもまず、状況が複雑になりかけていることに思考をおく。

どちらにせよ(それがフェーリの純粋な助っ人にしろストーカーにしろ)現れた助っ人がシェゾの敵だと言うことはハッキリしているので、シェゾは助っ人に視線を絞った。

「この際お前が誰でもいい、で、やるのか?」

とりあえず売られたケンカを買う意思を向けてやる。
しかしその売り手はあろうことか、シェゾのその言葉に何のことだかわからないと言うように間抜けに首をかしげたのだ。

「やる?…何を?」
「………何って…そっちが吹っ掛けてきたんだろうが…」

余りの状況の進まなさに、シェゾは軽い頭痛を覚える。 これ以上関わるのは面倒だと思い、コレをフェーリに押し付けてしまおうか考える。しかしはじめに騒ぎをつくりだしたフェーリを見れば、彼女はいつの間にかちゃっかりと2人から距離をとって他人のふりを決め込んでいた。

(要領いいなあのガキ…)

結果押し付けられた形になったシェゾがフェーリを睨めば、彼女は遠い人混みで確かに鼻で笑った。要領というよりはシェゾの運が無さすぎるだけなのだが、とにかく目の前の怪しい助っ人を何とかするのはシェゾの役目になる。

「だから、何をやるんだよ!!」

ギャンギャンわめきたてる声を聞きながら、シェゾはしかしこんな白昼堂々甲冑着込んで騒ぐようなあれそれと長く付き合うつもりは毛頭ない。
もう半ばどうにでもなれな雰囲気でシェゾは投げやりにヒラヒラと脱力した手を振った。

「あーもう何でもいいから、かかってこい、遊んでやるよ」
「ほんとか!?」





瞬間、相手の目の色が変わった。




シェゾの言葉に顔をあげるとニヤリと口元を引き上げ素早く体勢を低くする。大きく足を曲げて低い体勢からの一足による跳躍の前体勢、獣に近いその気配にシェゾは抜きかけた気を引き締め直す。

そして、それが跳ねた。

(早……って、え)

一足で跳びかってきたそれの起こした行動に、シェゾは思考が止まる。

気が付いたら、自分は影にいた。

それがあの甲冑を纏った相手が体を開いて太陽を遮るように自分に飛び掛かってきていたのだということに気付いたのは、見上げた時にそれの腹が目に入ったからだ。

その動作の意図が図れずにシェゾは一歩足を引くのが精一杯だった。その場でただ、見上げたシェゾに、その巨体は間もなく重力に従っ、て。

「遊んでー!!!!」
「……、っぎゃぁああーっ!!」

文字通り、潰された。

2メートル近い巨体に不意打ちで上から飛びかかれたら、踏ん張るとかそういう次元ではない。とりあえず頭を打つことはしなかったが、代わりに背中を激しく地面に打ったシェゾが起き上がる前に、上に乗ったそれがシェゾの肩を押さえる。

そしてあろうことか、その体勢のまま満面の笑みで頬を舐めてきた。

「…………は?」

完全にシェゾの思考が止まる。
いくらなんでも白昼堂々、道の真ん中で男に飛びかかられ押し倒され顔を舐められる経験はない。覚えもないし考えもしない。

しかし目の前のそれはさも当然の用に、もう一度舌を這わす。
嬉しそうに。
じゃれる様に。

「遊んでくれるって言った!!」

シェゾの上の彼はそれはもう嬉しそうにそう吠えてくる。言われてみれば確かに言った、遊んでやる、とは。だがそれは当然言葉通りの意味ではなく、ただ暇潰しに喧嘩の相手をしてやるというという意味である。普通は。

まさか、意味が、通じないとは思わなかった。

「待て、止め…!!」

とりあえず状況は飲み込めないが言葉の誤解を解いて脱出はしないと色々良くない。

正直「遊ぶ」から何故この状況になったのかもいまいちわからないのだが、それ以前に(上のそれは気付いていない様だが)この状態は色々な意味でマズイ。あらぬ誤解を受ける。

そしてシェゾが辛うじて思考を取り戻したとき、人混みから聞きなれた話し声が聞こえた。



「あれ、何かおもしろいことになってるね」
「先輩…どうしたんですか?」
「いやぁ何かね、バルが、『フェーリを守るために人間にして欲しい』って言ってきたからしたんだけど…」
「てことは、…まさかあれ、バルなんですか?」

それは、あの彗星の魔導師と、先ほどやり取りの渦中から消えたオカルト少女の聞き捨てならないやりとりだった。

「バル…遊んでくれるって言われたのがよっぽど嬉しかったのね…」
「そうだね、あんなに嬉しそうに舌出して腰振って…」
「……本当、犬みたい」
「人型だから大分問題あるけどね」


つまり。その会話の、意味するところは。



「やっぱりテメェの差し金か!!」
「やだなぁ、僕はバルの願いを叶えてあげただけさ」
「アナタが言葉を正確に発しないのが悪・い・の・よ」
「バルと遊ぼう、変態!!」
「変態じゃねぇ!!」

つまり、それの意味するところは。

(言葉を使うときは慎重に使いましょう)



「いいから離れやがれこのケダモノ!!」


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強制終了。
結構前にネタだけは出していたものです。気が付いたらなんか下ネタになっていたけど気にしない。

バルは馬鹿だと信じてます。



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