空は既に青く輝くのを止めている。最後に青い空を見たのはいつだったのか覚えていない、だけど確かに君が立っていたのは僕の隣だった、あの頃は。 僕は呆然と立ち尽くしたまま、震える右手でサタンから渡されたウラノススタッフを握り締める。魔力を込めればスタッフの先端とティアラが共鳴するように光を帯びた。 バタバタと、舞い上がる風が僕の魔導アーマーのマントをたなびかせる。魔導力を高めるためのティアラの下には、今でも確かに、髪留めの代わりに君から貰った青いバンダナが巻かれている、筈なのに。以前に使っていたお父さんの形見だったそれは部屋においてきてある。 僕がいつでも、あの家へと帰れるようにと、僕の居場所を守るために。 だからこのティアラの下に巻かれているのは君から渡されたバンダナのはずなのだ。 だってほら、いつからか君の額に巻かれているそれは、君に良く似合う黒い闇色に。 なのに。 「な、んで」 なのに何で今君は、僕の前に立ちふさがっているの? なんでその透き通る剣を、僕らを何度も救ってくれたその剣の切っ先を僕に向けているの? 震えが止まらない僕と反対に、君はじっと微動だにしないで冷たい視線で僕を見下ろしている。 冷たい視線。裏切り者。 「闇の後継者シェゾ・ウィグィィの名において、輪廻外生命体アルル・ナジャに告げる」 「…いやだ、聞かない、聞きたくない」 「聞け、そして戦え。これが、」 運命だ。 そう言った君の足元から瞬間、渦となって闇の波動が舞い上がる。運命だなんて、君が一番嫌っていた言葉じゃないか、そう言おうと思って顔を上げたけれど、君の周りの闇色が濃すぎて視線が交わることが無かった。 君の口が微かに動いた。きゅば、と、聞きなれた音を鳴らしながら闇の剣が形を変える。 「カイマート…」 僕は喉から搾り出すようにその剣の名を呟いた。 君の腕を絡めとる闇色の管が確かに脈打っている。 聞きなれた音、見慣れた動き、感じなれた波動だ、いつも見ていたから。 君の隣で。 闇が、迫る。 「認めるもんか!!」 瞬間膨らんだ闇の波動にすばやく防御魔導を展開する。そうしないと普通の人は闇に意識が呑まれてしまうって、教えてくれたのも君だった。 君が隣にいたときは君が意識的に此方にその波動が来ないようにしてくれていたけれど、君が僕の前に立った今、その波動はまっすぐと僕を捉えにかかる。 君は、迷わず地面を、蹴った。 僕はとっさにその場を飛びのいて一撃目を避ける。 君は逃した相手をそのまま放置するような人じゃないと知っているから、すぐさま身体を反転させて二撃目に備える。 一撃目が剣なら二撃目は魔導で来ると知っていた。 そう、知っていた。君のパターン、君の癖、君の。 「嫌だ!!僕は君と戦いたくなんか無い!!」 ばちぃ! 君から飛んできた魔導をシールドで上空へ弾きながら僕は叫んだ。 君は舌を鳴らしてそれから、僕に攻撃の意思が無いことを読み取って剣を地面に振り下ろす。はっきりと、まるで今の僕と君との関係を指し示すかのように、間の大地が、割けた。 「甘さを棄てろ、アルル。…友達ごっこは終わってるんだ」 「そんなんじゃない!!」 静かに、静かに空気を振るわせた君の言葉に激しく首を振る。 君が小さく視線を下げるのを視界の隅に捕らえた。 僕があまり大きく振りかぶったからか、髪の毛がちくりと僕の頬を叩く。そのときに一緒に揺れた髪留めの感触を、確かに感じた。 そんなんじゃない。友達ごっこじゃない。 甘さじゃない、優しさでもない。魔物に止めをさせないだとか、敵に情けをかけるだとか、そんな僕を甘いと言った君が目の前に立っているときに、僕の心に生まれたのは、君と僕は友達じゃないかなんてそんな甘い考えなんかじゃない。 違うんだ、だけど、だからこそ。 「僕は君とは戦えない!!」 「ふざけるな!!」 「君こそふざけるな!!何が運命だ!!」 運命なんて君が一番嫌っていた言葉じゃないか、今度こそ僕はそう叫んだ。そして、思わぬ反撃の咆哮に一瞬瞳を揺るがせた君を真正面から睨みつける。 その一瞬、僕は見てしまった。闇の中に掻き消えてしまうかのようなそんな一瞬で君が確かに泣きそうに瞳をゆがめたことを。 そうだ、運命なんて言葉を一番嫌っていたのは君だった。そんな君が運命だなんて言って僕に刃を向けること、望んでいたわけは無いんだ。君だって認めてないんでしょう?こんな運命だなんて嫌なんでしょう? 分かるよ、分かるさ、僕にだって、否、僕にだから。 だって僕は、君が。 (君を、守りたい) 頬を、暖かい何かが伝った。 それが涙だって気づいたのは叫び終わった後だった。 「な…っ」 君が目を見開く。瞬間、君の右手の周りに集中していた闇が収束力を失ってはじけ飛ぶ。 戦闘中に気を抜くのは君らしくなかったけれど、それはそれだけ君が動揺していたということで、君だって戦いたくなかったということだ。 君の周りの闇の波動が君の動揺にあわせて激しく揺らいだ。 それに伴って轟音が響いたけれど、僕はそれにかき消されないように声を張り上げた。 「伝わらないなら何度でも言ってやる!!届かないならいくらでも叫んでやる!!」 僕は君と戦いたくなんか無い。 甘さなんかじゃなくて同情なんかじゃなくて優しさなんかじゃなくて僕は君が。 「やめ…、聞きたくな」 「聞け!!」 完全に動揺した君が否定するように小さく呟いたけれど僕はもう気にしないで叫び続けた。 おそらく君も苦渋の決断だったのだ、僕の前に立つことは。その決心を揺るがせてしまったことは少しだけ申し訳なかったけれど、だけど僕も譲るつもりは無かった。 この言葉で君が僕の隣に戻ってきてくれるなら何度でも叫んでやる。 「好きだ好きだ好きだ好きだ!!!!僕は君が好きなんだよちくしょう!!」 視界に映る君が揺らいだのは君が空間転移をしただけじゃなく、僕の涙のせいもあった。 好きだから。 君が逃げるように闇の中に掻き消えた後でも、僕は叫び続けた。 闇の中の君にも届くように叫び続けた。 君の残り香にも似た闇の波動が消えるまで。 誰よりも、君を守りたい。 好きなんだ。 だから、戻ってきて、僕の隣に。 いつの間にか緩んでいた青い髪留めが、ぱさりと僕の膝に落ちた。 .甘すぎるこの想いがいつか誰かを殺しても. −−−−−−−− BACK −−−−−−−− 色々詰め込みすぎた。 ゲームやっててもなんでも、味方の裏切り敵対エピソードって好きなんですよ。 幻水Uジョウイとか、TODリオン、TOSゼロスとか、それを魔導でやってくれたら号泣ですよねという個人的妄想。んで最後には戻ってきてくれると最高。 やっぱりラストはハッピーエンドじゃないと!! あと個人的にはアルルのバンダナが最終的にはパパの形見じゃなくてシェゾのになってくれているとごにょごにょ。んでもってシェゾは途中で青バンダナ→黒バンダナの衣装チェンジつき。とてもおいしい。(え) どうでもいいですが某ひぐらしのYouと沙○子のキャラソンを聞きながら書いた文章だとかです。 にーにー好き好き好き好きな沙○子を聞いてシェゾに好きだ好きだ泣き叫ぶアルルが書きたかったんです(爆) [管理] |