※サタシェセリで死ネタ注意※













(誰よりも優しくて寂しくて残酷なあなたを)



あの人が何を見て、何を言い、何を思って生きてきたのかまでは私には分からない。

ただあの人が何も言わないでただ木陰で静かに瞳を閉じていたことは事実で、湖畔に咲く白い花を眩しそうに見ていたことも事実で、小さく口を緩めて私の頭をそっと撫でてくれたことだって今でも変わらない事実だ。

「……いいのか?」
「はい」

.スイソウ.










漆黒の翼を翻して、翡翠の髪を流した紅玉の魔王様が静かにこの湖畔に降り立ったのは丁度月が真上に登るころだった。

ゆらりと湖面に映る月が蒼い日のことだった。

あの人が好む月の夜に、魔王さまは静かに、あの人が好んで座っていた木の陰にほっそりと佇んで、湖底から私が出てくるのを、瞳を閉じてじっと待っていた。あの人の様に。

その腕に、あの人の亡骸を携えて。





………遺言、だったそうだ。

いつかあの人が気紛れにポツリと、深い意味もなく言っただけだそうだけれど、その気まぐれを魔王さまは確かに覚えていて、連れてきた。

『自分が死んだら、水に』

炎という明るい光に曝されることなく、土の闇に閉ざされることなく、光を緩やかに遮る水の底で静かに闇に浸かりたいと。

死の象徴とも言う月を映す水の中で。

あの人らしいと思った。
闇に呑まれるでもなく、光に染まるでもなく、闇を支配するあの人らしいと。
闇に凛と蒼月の様に佇む彼には確かに水が似合うとも。

「他ならないサタンさまと…あの人の願いなら」
「水を汚すことになるが」
「でしたら尚更、……浄めてあげましょうよ」

その事実を知った私が、涙こそ枯らさなかったものの、ことの外冷静な対処をしたことに魔王さまは戸惑いになられていたけれど、私は心の何処かで嗚呼やっぱりと思っていた。

何で、とか、どうして、とか。
誰が。とか。
そんなことは思わなかった、思ってはいけないんだと分かっていた。

だって私はあの人の、救済者でこそ、なかったけれど、けれど理解者ではあった。

だから彼の最期の瞬間に立ち会うことは無いだろうとわかっていたし、彼の為に取り乱して泣くことは彼が望まないだろうとわかっていた。
それは私の役目ではないということも。

私がやるべきはそうではなく、多分彼の望みを静かに確かに受け入れてあげることなのだ。

どんなに哀しくても、私は。

「けれど、私で、いいんですか」


それは疑問だった。
私はあの人の理解者ではあったけれど、救済者ではなかった。
だからこそ、彼を沈めてあげるのは私ではなくてもっと適任の者がいたはずなのだ、例えば。

「せめて、あなたが」

そう、私よりもきっとずっと目の前でじっとたたずむ魔王さまのほうが適任なのではないだろうかとか、それこそもっとずっと私より深い位置にいた者もいたはず、なのに。
すると魔王さまはひとつ小さく微笑んでから、これ以上私が手をかけたとあっては、奴に文句を言われそうだからな、と小さく呟いてから、それから。

それから静かにあの人を抱いた手を、ぎう、と。

だから私は魔王さまの手からあの人の亡骸を受けとり、その頬を、あの人が私の頭にしてくれたようにそっと優しく撫でたあと、水面に映る月の真ん中で、彼の手に弔いの白い花と剣を抱かせてそっと手を離してあげた。
貴様はバカだよと、小さく魔王さまが呟いたのが、送りの言葉だった。

…………彼を沈めるのが私の手で本当に良いのか分からなかったけれど。

けれどその場所にと彼が此処を選んでくれたことだけは、本当に。




「……すまない、な」

魔王さまが、あんまりあの人に似たような謝り方をするものだから、最後の最後で思わず、堪えていた嗚咽共に止まらない涙が零れた。





誰もが貴方のことを大好きだった。
きっと貴方は知らなかったでしょうけれど。

(私も、)



水面の月が静かに揺れた。

−−−−−−−−
実はこの話裏設定が色々あるのですが(真魔導設定とかシェアル前提とかの)とりあえず思ったのはシェゾは水葬がいいなぁと思って(縁起悪い話だ)決してエア○スとかス○ラとか意識してませんよ。

いやでもシェゾ水葬はいいです、よ。泣けます。自分じゃ泣けんけど!!

あと闇の剣とか闇の魔導師とかの特殊効果で腐敗しないとかで湖底にずっと眠ってるとかなんか変な伝説化しちゃって墓荒しみたいのからセリリが守ってたりごにょごにょごにょり。むしろサタン様に守られててごにょごにょごにょり。

水とか人魚伝説とか神秘ミステリみたいの好きなんです。
ていうかルーンロードがアレだからシェゾも幽霊になって出てきやしないんだろうか。(ぶちこわし)









どうでもいいですが文章で人を泣かせられるひとって凄いと思います。私も泣ける話を書いてみたいなぁ。



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