ここはどこだ?
自分の書庫だ。

それを見た瞬間、サタンはそう考えた。そしてワンテンポ置いて確認するように思考をなぞる。
そう、間違いなく、自分の城の書庫である。
ありとあらゆる資料が貯蔵された、一般のものには容易に入れない場所だ。
しかし、そこにはその場所のその床でさも当然のように寝息を立てている、闇の魔導師が、いた。




.くらり、衝動.










することが無ければそれこそ一日中寝ているくせに、反面必要さえあれば2日3日平気で活動し続けているような奴だ、コレは。人として最低限生活のリズムぐらい整えればいいのに、その間のコレは食事すらまともにとることをしない。

「…生きてるか?」

足の先で床に落ちているそれを小突いたら、それは鬱陶しげに一瞬此方を見上げてからもう一度瞳を閉じた。
床で寝るとはそもそもどういう了見か知らなかったが、そのときの顔色から判断しても、多分部屋まで戻る体力が残ってなかったのだろう。
生気の薄れた頬に銀の髪が無駄に綺麗に流れるものだから本当に生きているのか不安になった。

なんでこんなになるまで放っておく。

サタンは嘆息して指をつい、と横に流す。
その動きに合わせるようにそれの下に金色の魔法陣が浮かび上がる。
床に落ちているそれを客間のベッドまで転送してやろうというのだ。

しかし、次の瞬間バチ、と、火花が散るような感覚と共に光が霧散した。
反動で髪を軽く吹き上げる風を受けて、サタンは舌打ちをした。

「ったく…面倒なことを…」

こともあろうか床に寝るそれがもとより内臓していた防御魔導が発動して此方の魔導がかき消されたらしい。
元々は無防備な状態(要するに睡眠中)での外界からの攻撃に備えるためにあらかじめ張っておく防御魔導だが、何もこんな転送魔導にまで反応を示すレベルのものを常用しなくてもいいではないか。

思ったがまぁ、コレの職業柄、それだけの用心はするに越したことは無いのかもしれないなと、サタンは息を吐いた。
悲しいかな、それこそ寝ていようが食事中だろうが何の最中だろうがどこから攻撃が飛んできてもおかしくないような職業だ、闇の魔導師というやつは。
なにせ肩書きだけで賞金首なのだから。

そういえば、いつだかコレが呪いの類を3つ4つぶら下げて平気でそこらへんを歩いていたときにはどうしたものかと思った。もっとも闇の魔導師になった事実が最大の呪いだから、今更それの3つ4つなんとも無いのだろうが、さすがに不必要に犬に追いかけまわされていた時はかわいそうだからそれとなく解呪しておいてやったけれど。

何はともあれ客間にコレを運んで後、食事を取らせないといけない。

まぁ実際コレが食事をとっていようといまいと自分的にはわりかしどうでもいいのだが、生憎自分の周りの人間があれこれ気にするのだからしかたがない。
以前これが栄養不足が原因で魔導師見習いの彼女の前で倒れたときには、栄養を取らなかったのはコレのクセに、何故だか自分が少女にこっぴどく叱られた。

全く持って幸せなことではないか。

思い出して文句のひとつでも言ってやろうかと足でそれを転がしたら、思いのほか軽く転がった。
あまりに軽いものだから、サタンは思わず膝を突いて床の青白いそれに手を伸ばし、それの首裏をなぞって体温を確かめた。

びくりと。
その行為にそれが微かに身体を震わせて反応を示さなかったら、さすがに自分も肝を冷やしたかもしれない。

そのまま抱きかかえるのはなんとなく気が引けたので、首を離してそれの胸倉を掴むと、吊った隙間から浮き上がった鎖骨が覗く。
青白い喉元を無防備に晒して静かに微かに寝息を立て続けるそれの閉じられた瞳にかかる睫毛がなんとなくサタンの神経を撫でたから、腹いせの意味も込めてそのまま客間まで乱暴に引き摺っていった。

ベッドに放ったそれの髪が無駄に綺麗に流れるのを見送って、息を吐く。
あまりに起きる様子の無いそれに視線を送って、何をするにもほどほどにしろと吐き出したくなった。

でないと。

「…そのうち襲うぞ」





(中途半端に無防備に、浮き上がった鎖骨を、)
(噛み付きたい衝動にかられるから)




−−−−−−−−
首と鎖骨萌えです。
あえて姫抱きをしないあたりがポイントです。
姫抱きはどっちかっていうと嫌がるシェゾを無理矢理姫抱くほうが萌えるんじゃないかって思いました。

とりあえずシェゾは不幸でかわいそうなほど萌えるんですが、それはそれとしてとりあえず超サタシェブームです。




あきゅろす。
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