まっくらな闇の中にいすぎたから、この眼はもう見えないんだ、何も。 それでも確かに感じることが出来る光にすがるなんて、まるで。 「それこそ、虫ケラだ」 ぱしん。 乾いた音が左耳のすぐ側で響いた。 .運命の虫. 「ずいぶんと勝手なことを言ってくれるじゃない…」 怒気のこもった低い少女の声が響いて、ワンテンポ置いて左頬がわずかにヒリヒリとして、そこまできて始めて、シェゾは状況を理解した。 手のひらで、叩かれたのだ。左頬を。 シェゾはその頬を押さえることもせず、静かにベンチに腰掛けた足を組みなおす。 瞳を開けば、やがて暗転した世界に視力が戻る。そのまま視線をゆっくりとあげれば眼の目には黒。 先ほど自分の頬を軽快な音を立てて払ってくれた目の前の黒服の少女、フェーリは、振り上げた右手を下ろすことなくこちらを見下ろしていた。 シェゾは緩やかに口元を吊り上げる。 「……だって、そうだろう?」 くつ、と。 彼があげた笑い声は嘲笑だった。顔を下げておかしくてたまらないというように肩を震わせる。 決して気の長くない少女が痺れを切らしてもう一度右手を振り上げる前に、シェゾは笑いを消してフェーリを見つめた。 「運命だと言い聞かせて、お前は何にすがっている?」 びくり、少女の肩が震えるのを無感動に見送る。 サファイアの瞳が見つめた先にあったのは、シェゾのそれと同じ、蒼。 病的なまでに運命にこだわる少女に、病的なまでに運命を否定する青年が笑いかける。 「怖いんだろう、すがるものがないと」 「違…っ」 「運命だって、言い聞かせてるのは自分にだ」 運命だと言って彗星の魔導師にすがるフェーリの蒼を覗き込めば、その中に確かに自分が写っていた。 シェゾとフェーリとの数少ない肉体的共通点。 シェゾの蒼の中にも確かに、泣き出しそうな表情で瞳を見開く自分が写っている。 自分を確かに、射抜いてくる闇の瞳に、フェーリは乾いた喉を鳴らした。 肩がどうしようもなく震えるのはそれが図星だったからに他はないが、それでも認めたくは無かった。 自分が彗星の光を追いかけるのは、運命だ。 運命だから追いかけているのだ。 間違ってなんかいない。 「アタシが、先輩を追いかけるのは、間違ってなんかいないわ…!!」 搾り出すようにそう言ったら、闇の彼はやはりくつりと笑う。 「黒魔導師の、お前が?慕っていると?光を?」 闇が光を追い求めるのは間違いだと、はっきりそう言われた気がしてフェーリは今度こそ、もう一度右手を振り上げた。 しかし今度はその手は目的の場所に当たる前にシェゾの左手に掴まれる。 シェゾは静かに口だけで笑った。 フェーリは感情の昂ぶりに濡れた瞳で目の前の闇を、睨みつける。 「アンタになにが分かるのよ…」 「分かるさ」 はっきりと。 迷うことなく答えたシェゾに一瞬、呆気にとられる。 そしてそのとき瞳に写ったその彼の嘲笑が、自嘲を含んだそれだということに、何故だかそのとき気づいた。 シェゾは静かに視線を落とすと、瞳が閉じるか閉じないかの一瞬で、睫毛を振るわせた。 口は笑みの形のまま、眩しそうに遠くを見て、一言。 「……オレも虫だからな」 瞬間震えた少女の碧い瞳から、こらえ切れなかった感情の塊が一筋落ちた。 運命だと、信じないと怖かったのは。 運命だと、信じるのが怖かったのは。 病的なまでに、光を追い求めて、いたのは。 (それは、運命に縛られて、盲目に光を求めている碧い瞳) −−−−−−−− .BACK. −−−−−−−− シェゾとフェーリの同属嫌悪の話。 シェ→アルでレム←フェリ 何気に共通点が多い二人だとおもいませんかとか言ってみる。 どうあってもシェフェリを絡ませてみたい願望の表れではありません。 [管理] |