綺麗に、綺麗に笑う人だと思った。一片の隙もないくらい綺麗に。

綺麗すぎて逆に恐い、程に。






.光戦争.





「やぁ、みかけない顔だね?」

頭上から降ってきた言葉に顔を上げた。見上げれば箒にまたがる魔導師だろうか、太陽から逃れるように影をつくる大きな三角帽と長い前髪。
隠れた瞳は細く閉じていて瞳を読めなかった。もっとも開かれていても暗くてみえなかっただろうけど。

「空間が歪んだみたいだからきたんだけど、君も異世界から飛ばされてきたクチかな?」

さらりと言った彼は優雅に一礼をして、にこり、綺麗に笑った。

「……わかるのか」
「まぁね」

空間の歪みを察知できるとは、相当の実力者だと言える。異邦人は笑顔を崩さない相手をじっと、見上げた。

視線を向けられた方はそれに気付いているのかいないのか、首をかしげると言葉を続けた。

「君は誰を探しに来たのかな?光の勇者さん?」

言われて、勇者、ラグナスは今度こそ戦慄を覚えた。

「なっ…!!」

この短時間で此方の素性すら見切った実力者。どういう目的かわからないが、自分が勇者だと知って接触をはかってきたのだ。警戒心を強めた彼にしかし相手は慌てたように言葉を繋げた。

「あぁ恐がらないで、前に聞いた特徴と合致したからそうだと思っただけだよ」
「…聞いた?」

これには別の方向で緊張が高まった。自分を知っているものがこの世界にいる?無理矢理空間を渡ってきたのは、間違い、では、なかった?

「うん、銀の髪が綺麗な闇の魔導師に、ね」

どくん。
出た名前に不覚にも動揺が走る。ここにラグナスの探し人がいるのといないのとは、半々だった、気持ち的には。だが。

「いるのか!?」
「そう、面白いよね、彼。出会うなりいきなりお前が欲しいとか言い出すんだよ」

すると、そこまで言ってはじめて、目の前の魔導師は薄く眼を開いた。その動作にラグナスは再び思考を彼に戻す。
そう言えば、先ほどまで自分のことで精一杯で気付かずに、いたが、目の前の笑顔の魔導師はそもそも何のために接触をはかってきたのだ?
見下ろす視線が静かにラグナスを射抜いた。

「闇の魔導師と光の勇者か、確かに面白い関係だ」

言い終わる頃には、彼はまた完全に瞳を閉じていて、最初に見せた人当たりのよい笑顔を浮かべていた。
けれど、ラグナスははっきりと、彼の瞳の中に潜む、おいそれとはわからない敵意を読み取っていた。

「君、は」
「僕は光の魔導師レムレス、以後、お見知りおきを」

それから、お近づきの印にと、レムレスは何処から出したのか、大量の飴をバラバラとラグナスに持たせて。何をしに来たのか告げぬまま、箒にまたがり音もなく去っていった。

「光の…魔導師?」

そのまま呆然と、ラグナスは彼を見送った。結局、何のために彼が接触してきたのかはわからずじまいに終わった、と思う。

さっき感じた敵意は気のせいだったのかと、手の上の好意の塊を見下ろした。しかし手に積もった沢山の飴は、よく見れば。

「……カフェオレ味?」

それは全て、確かに。以前、ラグナスの求めている人が好きだと言った飲み物、の。味。

この大量の飴の中に、光の魔導師レムレスが接触をはかった理由があるのなら、答えはひとつしか、なかった。



「宣戦布告、か」

笑顔を全く崩さずに接触してきたレムレスに、厄介そうな人を敵に回したもんだと、ラグナスは溜め息をついた。


(何よりあの一連のやりとりだけで此方の好意が彼に向いていることを読み取ったところが恐ろしい)



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過去日記ログ救済計画。
シェゾ受でレムレスvsラグナス



あきゅろす。
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