.一致団結.
(今、ぼくらが出来ること)

(変わり行く未来を思いながらボクらは前に進む)




「あとは頂上だけだねっ」

まったくサタンは、なんだってこんないきなりまたよく分からないことをはじめようと思ったんだろう、と、アルルは扉の前に到着して息を吐いた。
ぷよ勝負は好きだからまぁいいのだが、こう唐突だと付き合わされる身にもなって欲しいと思う。

しかもご丁寧にカーバンクルを浚ってくれた。これでは面倒くさいからまた明日、とか言えないではないか。

しかし、と、アルルは扉に手をかける。

次は確か記憶からいけば、あたるのはシェゾだ。この塔形式のサタンのお遊びは、一度経験済みだから分かる。頂上に何故だかシェゾとルルーとサタンが待っているのだ。
普段は割りと喧嘩ばっかりなのに、こういう…自分と戦うというときだけ一致団結してみせる彼らは、いったい何なんだと思うことがある。何の嫌がらせだ。

シェゾに会ったら、君(達)も相変わらずワンパターンだねって、言ってやろう。
どうせお前が欲しいとか言ってくるんだろうから。

アルルは息を整えて扉を開けた。

「ぐー!!!!」
パパン、パパパン!!

「……へ、あ、え?」

勇み足で踏み入れた頂上で、しかし予想外の展開にアルルは間抜けな声を上げた。
確かに扉の前、一番最初に見慣れた銀髪が見えたのだが、それに歩み寄る前に足元からカーバンクルが飛びついてきたのだ。
それに続いたクラッカー音。

思わず尻餅をついたアルルの上に、パラリと、クラッカーの紙糸が落ちた。

「何、なになに?」

呆然と前を見上げれば、物凄く、ものすっごく渋い顔で、けれど確かにクラッカーの糸を引いた形で立っているシェゾがいたりして、ますます混乱する。

「え、シェゾ、これ、何?」

とりあえず身近な人に聞いてみた。
すると彼は面倒くさそうに此方を見下ろしてボツリと。

「誕生日だと、お前の」

ありがたみも何もなくなるような言い方、声音でさらりとそう言ってくれた。





「お誕生日おめでとう、アルル」

雰囲気を一気にクールダウンさせてくれたシェゾの一言の後、彼を電光石火の勢いで一通り絞め上げてから、ルルーは改めてアルルに優しく微笑んで祝ってくれた。
まぁ、一年経ってもその幼児体型は変わらないわね、と付け足すのも忘れなかったけれど。

それからプレゼント、と、可愛らしいポーチをくれた。

「どうだアルルよ!!私のこのどっきり企画は!!」

そのすぐ後にサタンが(やっぱりなぜか季節はずれなサンタの衣装を着て)笑いながら言ってきた。
ぷよぷよ勝負も出来るし、軽い運動のあとの豪華料理も楽しめる、すばらしいプレゼントだろうと胸を張っているサタンに、サンタ衣装似合ってるね、なんて笑いながら。

「ありがとう、ルルー、サタン」

なんて、そうこうしている間に階下から、ぷよぷよ勝負で戦ってきた人たちもわんさかやってきたりして、アルルはみんなに囲まれてプレゼント攻撃にあった。
こんな形で一致団結しなくても、なんて思いつつ、やはりそれはそれ、アルルはそのプレゼント攻撃をとても、嬉く思ったのだけれど。

人の群れに埋もれる前に見た、なにやらぶつくさ言っているシェゾに、満足そうに微笑んだサタンが言った、「今を受け入れ楽しむゆとりの心が大事だぞ」という言葉が印象的だった。





それからはもう、いつものこと。
みんなで宴会騒ぎにも似たパーティを開いて、主賓より盛り上がり始めた魔王様とか、それに順ずる格闘美女とか、それをたしなめる牛男とか、ひたすら食べている黄色い生き物とか、魔女の盛った薬に当てられた勇者様とか、泣き出す人魚とか、はた迷惑な演奏を始める鳥女とか、それはそれは。

相変わらずお祭り好きな人たちを楽しそうに見送って、アルルは輪の外、頂上の柵に身体を預けて騒ぎを見つめている銀髪の彼に歩み寄った。

「間接の具合はどうですか?」

ジュースを差し出しながら、ルルーに締め上げられた彼に冗談交じりでそう言えば、割と一貫して不機嫌そうだった彼がもう一度眉間に皺を寄せる。
あはは、なんて笑ってアルルは彼の隣で、柵に手をかけて空を見上げた。

「ありがとう」
「……何が」
「わざわざボクのために、誕生会なんて」

言えばシェゾは鼻を鳴らして、企画したのは魔王だし、準備したのはあの女だ、なんて言って、アルルから受け取ったグラスを傾ける。

「それでも、参加してくれたんでしょ?」
「…強制参加、だ」
「いじわるだなぁ」

冗談でもボクのためって言ってくれればいいのに。
そう、シェゾを見上げるアルルにあわせて、シェゾも身体の向きを変えて、柵に肘をかける。

「いや、どっちかっていうと自分のため」

飯も出るし、なんて、酷く平和的なことを言ったシェゾに、しかしアルルは満足そうに笑った。
それが君らしいよね。なんて、昔からは到底想像も出来そうになかったことを。
それから冗談交じりに、(少しだけ期待して)言った。

「じゃぁ、君からおめでとうは言ってもらえないのかな?」
「…なんの」
「誕生日の」

君からはまだ誕生日のおめでとうを聞いてないな。なんて。
言うアルルに呆れたように視線を送り、シェゾはそんな馴れ合いはごめんだと吐き捨てる。
やっぱりだめかと困ったように笑うアルルを見て、不意に、言った。








「おめでとうも何も、お前は俺のもんになるために生まれてきたんだよ」





「…へ?」
「だから別に今更お前にめでたいことなんて無い」

大体、誕生日がおめでたいなんていったのは誰だよ。
なんてさらりというシェゾの感性。
彼の言葉が足りないことは前から気づいていたことだが、だが、だがしかし。

アルルは弾かれたように笑い出した。
あまりに唐突に笑い出すものだから、宴会騒ぎの人たちも何事かと二人に視線を送る。それに困惑したのはシェゾだが、アルルは気にせず笑い転げた。

「あっはははは、シェゾ、きみ、」

しばらくして呼吸を整えると、シェゾを見上げて思わず流れた涙を拭う。

「……なんだよ」
「君の問題発言って面白いよね」

言って笑って手をとって。
困惑するシェゾの手を引き、宴会の中に飛び込んだ。

「君からおめでとうはもらえなかったけど、面白かったから許してあげるよ」

ジュゲムで飛ばされなかっただけありがたく思って、なんて無邪気に、アルルは笑った。
訳の分からないシェゾが、見た、アルルの頬が、何故だが赤く染まっていたことには、大して気にを止めないことにした。




誕生会は、まだ、続く。




(Happy Birthday Arle Nadja!!)


2007/7/22
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変わるもの変わらないものをほんのり表現したかったんですよ。
皆が大好きアルルたんでした。



あきゅろす。
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