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一人、また一人と教室から人が居なくなる。時刻は四時を、過ぎた頃。日は傾き、教室の中がうっすらと橙色に染まり出した頃だった。



「…あれ〜、鉢屋、帰んねぇの?」


自分を除いて、最後の一人が帰ろうとしていた時だった。
頬杖をついて窓際から外を眺めていた鉢屋は、まだ席から立とうとしない。その様子を、不思議に思ったのだろう。

まぁ、当然だ。



「……鉢屋は居残り」


「…あ、竹谷先生!…居残り?あいつが?…珍しいっすね」
「…ん、まぁな。…ほら、それより、気ぃつけて帰れよ」

「……あっ…やべ!今日バイトだ!…じゃっ、先生さよなら〜!」
「おう!」


そうしてバタバタと廊下を走って行く彼の姿が見えなくなるのを確認して、竹谷は静かに教室の戸を開けて中へと入っていった。





「……眠い」
「……お前なぁ、仮にも居残りさせられてんだぞ。もちっと申し訳なさそうにしたらどうだ」


とうの本人はと言うと、頬杖をついたまま、立ち上がりもせずに、椅子に座る教師を少々面倒臭そうに見つめて欠伸を漏らしていた。
それを見て、流石にいけないと思い、一枚のプリントを手にして鉢屋の席まで向かった。



「…ったく。…白紙とはどういう事だ」
「…だって眠かったから」
「……あのなぁ。仮にもこれはテストだぞ?…俺の授業だったからまだしも…」


そこには、一枚の白紙のテスト用紙があった。名前だけ、律儀に書いてある。
確かに、テストを白紙で提出するというのは非常にまずい。
それが、融通の利かない生真面目な教師だったら尚更、問題になる事だ。


しかし、鉢屋は一向に表情を変えずに目の前の教師を見上げた。



「……大丈夫だって」
「…何が」
「……だって俺、こんな事すんの先生にだけだし」
「………」



それを、自分はどう受け取ったら良いのか。
勿論、喜ぶべき所ではない。叱るべき所だ。


しかし、次に出た鉢屋の言葉に、彼の言うべき言葉は全て封じられてしまった。




「……つか、昨日、寝かせてくれなかったのはどこの教師だよ」



ピシリと身体が固まった。
痛いぐらいの視線から必死に逃げようとするが、それに身に覚えがありすぎて、最早逃げる事はできなかった。


そう、この二人には、誰にも言えない秘密があるのだ。




「……あれは…、久しぶりだったから…つい」
「…お陰で俺、今日腰もいてぇし…」
「……う…」

「……テストあるのに…。この変態教師」



最早、返す言葉もない。

何も、変態的なプレイを求めた訳ではなかったが、仮にも高校教師。相手は、生徒で、しかも男。
そんな彼と、寝かせられない程ずっと身体を求め合っていたとなれば…、変態と言われてもおかしくはない。


そう、この二人は、教師と生徒。

そして、恋人同士でもあったのだ。
勿論、誰一人として言えない秘密だ。





「……ごめんなさい」
「……別に、…嫌とか言ってる訳じゃ…ねーし」
「…お前が、あまりに可愛いから」
「……ばっ!…だからっ、可愛いとか言うな!」


途端に真っ赤になり、ガタンと席を立ち上がる。
そうして数歩、竹谷から遠ざかり、背を向けて立ち止まった。


「……とにかくっ、…先生のせいだから」

だから、今日の事は俺は悪くない、と。
真っ赤な耳が見え隠れする度、それだけで気持ちが高ぶる。

決して素直じゃないのに、彼の表情、仕草。どれも、手に取るように伝わってくるから不思議だ。

そして堪らない愛おしさが生まれてくる。




「……三郎」
「……何…」


ソッと名を呼び、そして数歩近づいて、その身体を後ろから優しく抱き締めた。

背丈の違いで、竹谷の腕の中に収まりきった鉢屋はその事に慌てて暴れ出す。
もし、こんな所を誰かに見つかったら…と。



「…先生っ」
「…八、だろ?」
「……ばか、…ここ…学校」

「……でも、今はお前と俺、二人だけだ」

「……っ、それっ、…教師の言う事か…よ…っ」



耳元にあった唇は、やがてそのまま伝って首筋へと滑り落ちた。
一日過ごした彼の、うっすらと香る汗の匂いが、いけないと思う気持ちを暴走させる。

シャツの下から忍ばせた手の先の肌の感触が、やけにリアルに緊張を感じさせた。
こんな、日頃学業の為に使用している教室で、しかも自分は教師で。相手は、生徒で。


もし、これがバレてしまったら…

一体、どうなってしまうのだろう。




「……んっ、‥ア」
「……三…郎」
「……っ、な‥に」



それでも、自分が選ぶ選択肢は迷い無く一つだ。
こんなにも愛おしい彼を手離して、一体自分に何が残ると言うのか。

教師である以前に、彼もまた、一人の男なのだ。



「……興奮してる?…ココ、もう硬くなってる」
「…っア‥!…やっ…‥さわ…ん…なぁ」


布越しに主張する自身を、掌でやわやわと握り込む。
甘い声が、普段よりもこの環境を刺激としているのがわかった。

既に上がりきった吐息は、熱を帯びて空気中に消えていく。

いけない事だと、わかっていても。
浮かぶ吐息が、汗の匂いが。甘い声が、表情が。
全てが、その制御を意図も簡単に取り去っていってしまった。

これはもう、後には戻れない。



もう、どこにも、逃がしはしない。





「……逃がさ…ない」
「…アッ‥、ん…、は‥ち?」

「……っ…逃がさねぇから」


何があったとしても。
もう、手離せないから…。



「……ふ、ばぁか」
「……さぶろ…」


「……、俺だって、どこにも逃げねぇよ。…どこにも…、な」



そう言って彼が微笑んだ、その瞬間。
何かが外れたかのように、無我夢中で唇を重ねていた。


もう、二人は同罪だ。
どこまでも二人、堕ちていくところまで、一緒に。


そんな覚悟、とうの昔に、できているのだから。






時刻は既に、五時を過ぎた頃。

夕闇に染まる教室の中、交じり合うシルエットを紅く燃えるたった一つの夕焼けだけが、ジッと見つめていた。








≫教師×生徒も萌えます^//////^








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