毎日が正月だったらいいのに、何て子供みたいな事は言わない。それでも、このだらけきった生活から抜け出すには少し難がある。
明日が仕事始めだと言うのに、やはり今日も、昼に起きて食べてテレビ見て寝て。
そんな生活の繰り返しだ。
ああやはり、前言撤回。
このままずっと、正月だったらいいのに…。
「…三郎、もうちょいそっち詰めて」
「……ん〜‥、めんどい」
「………」
隣に座ろうとするが、そこからまるでナマケモノの如く動こうとしない鉢屋のせいで、それが叶わない。
竹谷は、少し眉間に皺を寄せて彼に視線を送った。
「…じゃあ膝の上に座るぞ」
「……やったら口きかねぇ」
「………」
思わず口を噤む。
こういう場合はどうしても、彼に先を取られてしまって少し納得がいかない。
かなわないのは十分承知だが、年上の恋人として、そこはもう少し自分を優位に立たせたい。
少し冷たい視線の鉢屋は、心底面倒臭そうだ。
しかし、そんな態度を取りながらも、彼は漸く重い腰をあげてソファの端に身体を移動させてくれた。
「…サンキュー」
「……八、太ったんじゃねぇの」
「…………え」
一瞬、空気が固まった気がした。戻るまでに数秒の時間を有した後、竹谷はひきつった笑みで鉢屋の方を向いた。
「……何で」
「…いや、だって…座れなかったし。さっき」
「…ってありゃ狭すぎだったろ!」
「……い〜や、確実に太ったな」
だって、ほら、と。
何をするのかと思えば、竹谷の腹に手を伸ばし、そこに付いた肉を一摘んでそれを確かめる。
突然の事に、竹谷からは変な奇声しか出ていない。
しかし鉢屋は、お構いなしにそんな彼の腹を触り始めた。
「……ほらやっぱり」
「…うっ…うるせぇ!太ってなんかないぞ!」
「……あ、こっちも肉が…」
「わああやめろおぉ」
鉢屋が急に近付いたかと思ったら、今度は背中にまで手を移動させられた。
抱き締められる距離に居ると言うのに、今は彼を遠ざけたいと思ってしまうのだから悲しい。
太ったと言う事実を、本当は気付かない振りでやり過ごそうとしていたなんて…、言えなかった。
「…ちょっ、…こら!…三郎!!」
「……おわっ」
「………あ」
「………ぶっ」
しかし頭で口で、どうこう言っていても、やはり身体は正直だった。
目の前にあった鉢屋の身体を、遠ざけるどころか、思わず勢いのままに抱き締めてしまったのだから。
肩でクスクスと笑う彼さえ可愛くて堪らないと思ってしまう。
「……デブ」
「…デブ言うな」
「…デカい身体しやがって」
「……俺がデカいのは、三郎守る為なんです〜」
「………ぶっ、ははは」
珍しく楽しそうに笑った鉢屋は、竹谷の首筋に額を擦り付けた。
これは、彼にしか見せない甘える仕草の一つだ。
「…何だよそれ」
「…ん?…かっこいいだろ」
「……ははっ、かっこよくねぇし」
竹谷の胴にぎゅ‥と巻き付いた腕を、鉢屋本人は気が付いているのだろうか。
例え無意識だとしても、こんな嬉しい事はない。
竹谷も、何も言わず、彼を強く抱き締めた。
「……うりゃ」
「……あにふるんは…」
「…っ、ははは」
「……このやろう、三郎」
やけに上機嫌な彼に文句を飛ばしながら、それでも額に口付けを落とし、じゃれ合う。
だから、それをいい事に。
伸ばされた頬を赤くさせ、楽しそうに笑う彼をそのまま、小さなソファへと押し倒してやった…。
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