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『電車が参ります。白線の内側に――』




ざわざわと人の行き交う音が溢れている
電車の中もホームも人間でごった返す通勤ラッシュ
前から後ろから人の波が押し寄せる



(…婚約者………)



あたしの頭の中は今朝のお母さんの言葉でいっぱいだった




『千晴にも婚約者がいるのよ』




ここ数年――いや、18年間の中でも例を見ない爆弾発言だった
初めはお母さんの戯言かと思ったがお父さんもお母さんの言葉に頷いた



(本当…なんだろうな……)



お父さんは滅多に嘘をつかない
お父さんの頷きには絶対の意味が込められている



(帰ったらいろいろ聞かなきゃ…)



どうしてあたしに婚約者がいるのか
それはいつから決まっていたのか
相手はあたしの存在を知っているのか




相手はどこの誰なのか






「きゃっ!」



ドン、と音がして力強く肩と肩がぶつかり合った
完全に自分の前方不注意
考えに耽って流されるままに出口に向かって構内を歩いていた



「…ってぇ…」



目の前で肩を押さえる男の子
しかめた顔に揺れる黒い前髪
長い睫毛がゆっくり上下する



「ぅあ、ごめ…」

「…ってぇな、てめぇ」



目を引く綺麗めな顔に似合わない低い声がその顔に似合わない言葉を発した





「どこ見て歩いてんだよ、バカ」





そう吐き捨ててあたしの横を通り過ぎて行った
振り返れば人の波に消えていく紺色の背中
この辺りで知らない人はいない有名進学校の制服



(………はぁぁあぁ!?なんなのあいつ!!)



確かに考え事しながら歩いてたあたしも悪いけど!
女の子に対してその言葉遣いはどうなの!?
ちょっと顔がいいからって!!

ちょっと頭がいいからってーっ!!



完全に見えなくなった背中に悪態をつきながら出口までの道を急いだ



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あきゅろす。
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