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「婚約…っ!?」

「しーっ!!!!」



急いで目の前の口を手で押さえた

ごめん、とあたしの手のなかで謝るのは友人の前田ひかる



「ひかる、お前周りのこと考えろよ?」



そう諫めたのは羽柴奎吾(はしば けいご)
ひかるの彼氏であたしとは小学校からの腐れ縁である



「うぅ…ごめん、ちぃちゃん」

「いや、あたしも突然…ごめんね、こんな話」





今は昼休み
あたしたちは教室の片隅に座していた
ひかるの声にその瞬間は何人かがこちらに向いたがすぐにもとの位置に視線を戻していった





「そんな漫画みたいな話…」

「ね、でも現実なんだよ」

「…相手は?」



おそらくひかるも気になっているであろうことを奎吾が遠慮がちに質問してきた



「知らない」



それはあたしが一番知りたいことでもある



「知らない、ってお前…」

「ほんとに、知らないんだよ」



今朝突然婚約者の存在を告げられて
相手の情報は得られないまま家を飛び出し



(あいつとぶつかった――…)



今朝の駅での出来事を思い出した



『どこ見て歩いてんだよ、バカ』


目を引く容姿に反した人を引き付けない言葉遣い



(あーむかつく!思い出したら腹立ってきた!!)



「け、奎吾ぉ!ちぃちゃんの顔が…」

「ほっとけ。席戻るぞ」




そのとき、本鈴が鳴って教室のドアが開いた



「はい授業始めるよ〜」



入ってきたのは国語の黒田先生
政宗お兄ちゃんである



「起立」



クラス委員の号令でガタガタと椅子を引く音が教室に響く
お願いします、と会釈をして着席する



「今日は〜…教科書220ページからかな?」



そう言って教科書を持ち上げた政宗お兄ちゃんの左手にはキラリと光るものが在る
お兄ちゃんと美晴さんを結ぶ赤い糸



(昨日終わったはずなのに…)



あたしの恋は
昨日終わったはずなのに
終わらせたはずなのに



一時間、まともにお兄ちゃんを見ることが出来なかった

モヤモヤ、モヤモヤ



(気持ち悪い…)



イライラしていた心が一瞬にしてモヤモヤに変わる
どう対処すればいいのかわからないまま終わりのチャイムを待った



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あきゅろす。
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