Ep.4

高)――ねぇ、私とあなたはどこが違うのかな…

私は、いつから変わってしまったのかな…








『僕はそれでも歩いていく。【夕立】』








ス)「はいOKでーす!お疲れ様でしたー!」

高)「お疲れ様でした〜」

ス)「高瀬さん今日も調子良かったねー!」

高)「え、そうなんですか?」

ス)「自覚なし!?…まぁいいか。とにかく、この調子で次の特集のモデルもやってくれないかな〜」

高)「えーそんなー(汗)もうこれでいっぱいいっぱいですよ」

ス)「でも、この業界に入れば、今より良い生活出来るよ〜?」

高)「んー…でも、今のままで充分良い生活してると思います…(けろり)」

ス)「でも…」

ス2)「次、U・Sジーンスの撮影はいりまーす!」

ス)「おっと、俺もいかなくちゃ…それじゃあね!」

高)「あ。はい!お疲れ様でした」

S・E【ガヤ】

――この仕事をやって半年がたった。

仕事…といっても、本職ではなくバイト程度で、時々雑誌のモデルとして出ている。

ただ服を着て、カメラに向かって笑えば良い…と言われ、「それならいいか」と二つ返事で引き受けた。

しかし、私のどこに反響を呼んだのか、読者からの評判が良いらしく、事務所入りしないか…とさっきのように遠まわしに言われるようになった。

もちろん、自分の生活を潰してまでこの仕事に打ち込もうとは思わない。

このぐらいが丁度良い…今の生活で満足なのだから、それを崩すようなことはしたくない。

だから…

モ)「ちょっと、高瀬さん」

高)「へ?」

モ)「あなた…いつまでこの仕事を続ける気…?あ、仕事じゃなくて、バイト…だったかしら」

高)――この人は、最近何かと私に話しかけてくる。

ここではけっこう有名なモデルらしいが…あいにく雑誌を買おうとは思わないのでよくは知らない。

「そうですね、バイト程度でやってます」

モ)「っ!だからッ、その中途半端な気持ちでこの世界にいるのはやめていただけないかしら!」

高)「…?はぁ…」

モ)「ここにいる人たちはみんな厳しいオーディションで勝ち残った優れた人達なの!その中にあなたみたいな人がいるとハッキリ言って腹が立つの!今日のポスターのモデルだってほんとは私がやるはずだったのに…!なんでッ」

高)――あぁ、そうなんだ…

そりゃあ悔しいよね、分かるよ…

高)「すみません、あなたの仕事だったとは本当に分からなかったんです」

モ)「何よそれっ!そんな理由で私が納得するとでも…!」

高)「でも、私が頼まれたのは読者が私に出て欲しいって言ったからなんじゃないんですか?私が必要とされる限りは出来る限り続けるつもりです…あなたも、読者いてこその雑誌モデルなんですから、もっと読者のことを考えた方が良いと思います。大丈夫、あなたはあなたの魅力を精一杯見せれば良いんですよ…それだけじゃあ、ダメなんですか?」

モ)「なっ!何偉そうに…ッ!何様よ!」

高)――自分でも「ほんと、何様だろう」と思うけれど、でも、この人の意見はモデルとして「誰かのため」ってのを考えていない言葉しか並んでいないと思った。

どうしてそんなに、誰かと競うのを好むのだろう…

勝ったら優越感に浸って、負けたらイライラして人に当たって…それって苦しいと思わないのだろうか…

もっと、自分に優しい人生を送った方が幸せだと思う…私の意見だけど…

「あくまで私の意見なんで、気にしないで下さい。不快にさせてしまってすみませんでした。それでは失礼します…」

モ)「ちょっと!あなた!」

高)――さすがにこれ以上話すと疲れるので、聞えないフリをしてその場を立ち去る…

これぐらい、許してくれるよね…?

***

高)「はぁ〜っただいま〜」

裕)「おかえりなさーい!」

夕)「あの…ここ俺ん家なんですけど」

高)「だぁ〜って〜!家に帰っても誰もいないんだものー!」

朝)「で、俺はなんのために連れてこられたんですか…?(汗)」

高)「え、賑やかな方が嬉しいから。人集め」

朝)「えぇっ!勘弁してくださいよ〜(泣)夕飯の買い物に行かなくちゃいけないのに〜」

夕)「あのなー高瀬さん…そんなに寂しいなら、男でも作れよー」

高)「いやよ、そういうの嫌いなのっ」

夕)「はーっ(溜め息)とにかくお前は家に帰れ」

高)「いーやーだーっ!」

朝)「めずらしいですね…高瀬さんがこんなになるなんて…」

夕)「ここ半年前から時々なるんだよ…」

朝)「何かあるんですかね…?」

夕)「さぁな、でも落ち着いたら勝手に帰っていくから、心配はしてないけど」

朝)「はぁ…でも…(何か言いたげに)」

高)「裕桧ちゃぁ〜ん」

裕)「お姉ちゃんくすぐったい〜!あははは!」

朝)「そ、そうだっ!(汗)高瀬さん!良かったら、一緒に買い物いきませんか?(汗)」

高)「買い物…?いいねー行く行く!」

裕)「裕桧も行くっ!」

夕)「は!?お前はダメだ!」

裕)「やーだー!裕桧も行くんだー!」

高)「いいじゃない、多い方が楽しいし。ちょっと貸してよ」

夕)「うちはレンタルショップじゃねーんだけど?」

高)「でもその商品がレンタルされたがってるわよ?」

裕)「レンタルされたいでーす!」

夕)「んあ〜〜っ!じゃあ6時半まで!それまでには帰って来いっ!いいな?」

裕)「うんっ!」

高)「じゃ、お借りしまーす!」

朝)「すみません芳浦さん(汗)」

夕)「あ〜良いけど、その代わりちゃんとこいつら見張っといてくれよ?」

朝)「分かりました(苦笑)いってきます」

夕)「あぁ、いってらっしゃい」

***

S・E【カラス→スーパー袋の音】

裕)「悠一、たくさん買ったね!!」

朝)「はい、卵安く買えて良かったぁ(嬉)これで何日保つかな…(ブツブツ)」

高)「良かったわね〜(笑)はぁ〜っ!それにしても、やっぱ夕方の空気は美味しいわ〜若返る〜」

朝)「なんですかーそれ(笑)」

裕)「んー!夏の匂いがするね!」

高)「匂い…?」

朝)「あぁ!分かりますそれ!裕桧ちゃんも分かるんだ!」

裕)「うん!あとねー、休みの日の匂いも分かるよー!」

朝)「あと、夜の匂いとか!」

裕)「うん!裕桧、その匂い大好き!」

高)――目の前にいる子ども達の屈託のない笑顔に自然と頬が緩んだ

この子達の見ている世界は、きっと目を細めるほど眩しくて…少し羨ましい…

そう思うと同時に、不思議な会話の中に出てきた「匂い」というものが分からない自分に疑問を抱き、ついには壁を感じてしまう…

大人と、子どもの壁

同じ人間なのに、この子たちには分かって私には分からない…

なんでだろう…急に心にぽっかり穴が空いて…胸が苦さでいっぱいになって…

裕)「あれ…おねぇちゃん…どうしたの?…苦しいの…?」

高)――瞬間、ハッキリと自覚する

「…ッ…」

朝)「ど、どうしたんですか高瀬さん!!?」

高)――忘れてしまった…

「忙しさ」というものに「子どもの心」を掻き消されてしまったんだ…

戻りたい…!もう大人でいることに疲れたよ…

S・E【夕立(雨音)】

朝)「わっ!雨だ!夕立…!?」

裕)「すごーい!シャワーみたーい!」

高)「別に、何でもないわよ…!(無理に笑ってみせる)」

朝)「え…でも…さっきは…」

裕)「おねえちゃん…悲しかったんだね。だから雨さんが泣いたんだね!」

朝)「雨が泣くって…裕桧ちゃん、それは雨が「降る」っていうんですよ?」

裕)「ちがうよ悠一、雨は誰かが悲しかったら一緒に泣いてくれるんだよ?」

高)「…っ…あなたには負けるわ、裕桧ちゃん…(困ったように笑う)」

――そう、雨はいつも、泣きたくても泣けない私の代わりに泣いてくれた…

雨音は、声となって私に呼びかける

「ほら、泣いてもいいよ…」と。

優しさに溢れた、一滴が、隠すように、分かち合うように…

大きな音を立てて、降り注ぐ

裕)「裕桧の勝ちー?わーい!(←分かってない)」

朝)「え?えぇ?(汗)」

高)「子どもに見栄張っても仕方がないのね…じゃあ、もうちょっとだけ、このままで良いかしら…」

――夕立の中、私は涙を流しました…

きっと、雨と一緒に悲しみも・辛さも、流れていくから…

例えそれが一時期の気の紛れでも、そうでもしなきゃ、もう私はダメなほど弱くなってしまったのだ…

これは、大人故の弱さだ

S・E【雨音だんだん小さく】

***

朝)「服、びしょ濡れになっちゃいましたね(汗)」

高)「ご、ごめんねっ…早く雨宿りすれば濡れなかったのに…(申し訳なさそうに)」

──あの後、朝野くんと裕桧ちゃんは雨の中、私が泣き止むまで側にいてくれた

朝)「いえっ、良いんですよ!(慌てて)えと、なんていうかその…高瀬さん、さっきより元気になったような気がします…」

高)「ぇ…?」

裕)「うん!おねえちゃん元気になった!それに裕桧は楽しかったよ!」

高)「…っ…バカね…私はいつも元気よ!(威張って)」

S・E【3人笑いあう】

高)――そうね…もう私は自覚するほど大人になってしまった…

それも、子どもの頃の感覚を忘てしまった…

だから、今だって戻りたいって思いはある…

でも、この子たちがいれば、私はきっと思い出せなくとも、そのヒト欠片でも貰えるかもしれない…

辛くても、また前を向いて歩けるかもしれない…

朝)「高瀬さん、帰りましょう!」

高)「そうね!じゃー芳浦さん家まで競走ね!よーいどん!」

裕)「かけっこだ!わーっい!」

朝)「あっ、待ってください!負けませんよーっ!」

高)――駆ける足取りは軽く、飛べそうなくらい心地よい

朝)「ほら、高瀬さん…これが夏の匂いですよ…」

高)──隣で走る少年の優しい声音を耳にし、少し大きく息を吸う



















高)「…そう…これなのね…」



──震える声に少年は気付いただろうか…


道に出来た水溜りは、3人の笑顔をゆらゆらと映し出していた。




Ep.4 Fin.










あきゅろす。
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