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馬鹿みたい
いつの間にこんなに
好きになってたんだろう…



藍沢





高一の時もアイツとは、同じクラスだった。普段からあまり交流もなくて対して気にも留めていなかったし、逆に嫌いなタイプとして認識していた。
だけど、高二になって席が近くなったことをきっかけに馬鹿コンビと親しくなり、アイツの……真っ直ぐ過ぎる性格に惹かれていったのだと思う…。

クラス内で小さな虐めが起きた時、陰で虐められたコを助けていたのを知った。
いつもおちゃらけているアイツの違う一面…。
なんだか少し…気持ちが揺らいだ…。あぁ…こいつこういうヤツだったんだって。なんだか胸の辺りがソワソワするような、そんな気持ちになったのを覚えている。
紫とは高校に入ってから友達になった。
くるくる表情が変わって見ていて飽きないコだ。
私はこのコの素直過ぎる性格が少し羨ましかったのかもしれない…。私は素直に…自分の気持ちを認めることが出来ないから。


分かってはいたのだ…。薄々とは。
アイツは……私のことなんて男友達と同じように見ていて、一人の女の子としては全く意識などしていないって…。
だけど……あの日、放課後の教室でアイツに深刻な顔で見つめられて……まさか…
他の女の人のことで恋愛相談をされるなんて、思ってもいなかった。
胸が激しく…抉られるように痛かった。泣いて泣いて…その時私はアイツに抱いている恋心というものをはっきりと自覚した…。


だけど……一番最悪だったのは…



「紫ちゃんといい、君といい…ほんと恋愛下手だよね〜いや、悪いのは男の方か〜」


放課後の誰もいないはずの教室で一人泣いていると、突然背後から楽しそうに笑う勝悟の声が聞こえ、私はビクリと肩を震わせた。


「………」


私は振り返ると無言で勝悟を睨み付けた。


「それならさ、俺にしておく?そんな風に一人で泣かせたりなんてしないよ?」


勝悟はこれ以上愉快なことはないってぐらいに人を嘲るように笑いながら、ゆっくりと顔を近付けてきた。


バシッ!


乾いたビンタの音が教室内に響き渡る。


「うるさいのよっ!あんた…!……サイッテー!」


「サイッテー…か…」


叩かれて赤くなった頬を押さえることなく、勝悟は冷めた瞳で宙を見つめていた。


最低だ。最低!
どうしてどいつもこいつもデリカシーのないことばかり口にするんだ!
元より勝悟のことは好きではなかったが、このことで余計に嫌いになったのは言うまでもない。


でも……最低なのは私も一緒か…。
アイツの好きな女性(ひと)……蜂屋葉子先生は、どう見てもアイツのことなんか眼中にも留めてなくて、全く相手にされてないのが傍から見ていても分かりきっていた。
だから余計に苦しくて……この辛い気持ちをどこにぶつけていいのかわからなくて…

勝悟の話から先生には婚約者がいるということを知り、アイツを傷つけまいと…そう、傷つけたくなくて…あんなことを言った……

でも…でも…もしかしたら…


「あ、あのさー…蜂屋先生って婚約者が…いるんだって」


「…!?」


あぁ…やっぱり知らなかった…
徹は驚き目を見開いた。その反応からやはりその事実を知らなかったのだと悟る。


「だから……なんだよ?」


「だ、だから……蜂屋先生のことは諦めた方がいいと思うんだよ…だって、先生は婚約者がいるんだし年下の…しかも自分の教え子になんか興味持たないよ…!」


自分でも何が言いたいのかよくわからなくなって、最後は早口で捲し立てた。


「………おまえには…関係ないだろ!」


「……っ」


最悪だ。
どうしてこうも全て裏目に出る…。
いや、分かってる。本当は…
本当は……アイツを傷つけたくないからなんて……嘘だ。

私は……自分のやり場のない感情をただぶつけたかっただけなんだ……!
傷つけたくなかったからなんて…なんてカワイイコちゃんな理由だろう…。

私はこのドロドロした感情に押し潰されそうになっていた。

仲直りは出来ても埋まらない溝。どうしたらこの溝を飛び越すことが出来るの…?






自分の
気持ちに
正直でいたかったんだ



平永





高一の体育の授業中、足を痛めて保健室に行った。
その時、保健の先生はちょうど留守にしてて誰も居なかった。
いや、誰も居ないと思ったけど…座って待っていようと長椅子に近付いた時、カーテンの引かれていたベッドの所で寝返りをうつような音が聞こえた。俺は少しドキリとして、静かにベッドに近付いた。
カーテンの隙間からちらりと覗くと、担任の蜂屋先生がベッドにその身を横たえてすやすやと寝息を立てていた。

その姿に…なんというか…見惚れてしまった。
普段、蜂屋先生は男勝りでサバサバとしていて凛としていた。

こんな……姿見たことない。
こんな…こんな…
蜂屋先生に女性的な魅力を感じたのは…これが初めてだった。


それから、先生を意識するようになってからはそれ以外の女性的な仕草、振る舞いを段々と発見するようになっていった。
その度に…俺はワケも分からず胸を高鳴らせていた。
これは……恋なのだろうか?

ある時…その思いが募りに募って、俺は放課後階段の踊り場で先生を呼び止めた。


「蜂屋先生!」


「おぅ、どうした?まだ帰ってなかったんだな。」


先生は振り返ると俺を見てふわりと笑った。
その優しい笑顔にも俺の心臓は反応してしまう。


「あ……その…。教室に忘れ物しちゃったんスよ。……先生はこれから帰りですか?」


「あぁ…一度職員室に寄ってから帰ろうと思ってたとこだ」


「あ、あの!…もし良かったら…お、俺と一緒に帰りませんか?」


言った!その瞬間は心臓が早鐘のように煩くて、うまく息が吸えないくらいだった。


先生は軽く俊巡した後、いつものように肩に教科書を担ぐような仕草をして俺に言った。


「お馬鹿。年上をナンパしてんじゃねぇよ〜。さっさと家に帰って勉強しろ」


決して強い口調ではなく、いつもの蜂屋先生らしい男っぽい言い方だった。

だけど……そのいつもの口調が、今の俺にはかなり堪えた。
本能的に今の数分間のやり取りで悟ってしまったのだ。

あぁ……俺は…全く相手にされていない…と。


当たり前だよな…先生と俺じゃあ歳が離れ過ぎている。

分かっていたんだ…分かっていた。
でも、自分では認めたくなくて諦めたくなくて……だから睦実に先生に婚約者がいると告げられた時も、あぁ…やっぱりなと思った。
そして睦実を怒鳴りつけてしまったのは……真実を受け入れるのが怖かったから…。既に気付いていた自分の気持ちを認めたくなかったから…。

睦実は何も悪くないのにな…。
自分の気持ちに整理がついたら、ちゃんと睦実に謝ろう。


『あの時は…怒鳴ってごめんな…』って…








誰にも
理解出来るはずないよ
俺の心の内なんて



池谷





どんな反応をしてくれるのか楽しみだったんだ。
だから、藍沢さんにあーゆうことを吹き込んだ。


勿論、徹じゃなくて俺にしとけば〜?っていうのも面白半分で訊いた。
あんなに期待通りに怒ってくれるなんて思わなかったから、あんまりにも嬉しくてついつい色々口が滑ったっていうのもあるかもしれない。

自分でも自覚してるよ。
俺って、普通人間にはあるはずのものが欠如しちゃってるみたいなんだよね。
どうしてこんな風になっちゃったのかは分からないけど、あぁ…もしかしたら生まれつきかもね。

とにかく、他人を追い込んだり…時には自分を窮地に晒してみたりそういうのが楽しくて楽しくてしょうがないんだよね。
だからさ、藍沢さんの判りやすいぐらいの反応が可笑しくてちょっと悪ノリしちゃったんだよ。


「どうして……私にそんなこと話すの?……何が目的?」


藍沢さんは少々戸惑いながらも、俺に対する警戒心は無くさないようキッと睨んできた。


「別に目的なんてないよ。ただ、偶然耳にしたことを親切に教えてあげただけだよ。藍沢さんって……徹のことが好きなんでしょ?」


「…だったら何よ!?」


本当面白いね。君。
そうやって敵意丸出しな所がかえって煽る原因になるって…気付かないのかな?


先生に婚約者がいるって事実を敢えて、徹じゃなくて藍沢さんに突き付けることで、俺はこの先二人がどのように動いてくれるか愉しみだった。


でも、まさか俺の想像した通りに事が運ぶとはなぁ…。
ある意味つまらないけど…でもまるで自分が二人を思い通りに操れたような昂揚感が得られたから善しとするかな。


俺は他人にバリアを張って生きてるし、表面上は楽しく笑っていても心の内には常に冷たい風が吹きつきつけているような寒冷状態だった。
上っ面だけの言葉や態度なんて当たり前。
誰もこの冷たく凍えきった世界に足を踏み入れることは出来ない。いや、踏み込ませたりはしない。

あ、でも藍沢さんには…少し見破られてたかもね。
まぁ、その程度だけどさ。


きっと俺も色んな意味で、彼女に興味があったのかもしれない。
勿論恋愛感情なんて甘ったるいものでは絶対ないけど、ね。


『あの俺を睨みつける瞳が心地好くて堪らなかったんだ』










私は
あの子を
受け入れるべきじゃないからな



蜂屋






私は本来、実家の家業を継ぐ為に生まれてきたのだ。
けれど、私は親の反対を振り切り教師になるという道を選んだ。
ただ厳格で狡猾なうちの親は、私の前に一つ餌を垂らして見せた。
それは……私が幼い頃から慕い将来結婚を夢見ていた彼、橘廉太郎との婚約だ。
勿論この婚約には裏がある。

――彼の家との結びつきを強くする為。
とどのつまり、政略結婚というわけだ。
彼と結婚したくば、家業を継げ。
継がず、彼と結婚することは許さない。

……我が親ながら何とも姑息な真似をする。

だが、親の願いも虚しく私は教師の道を選び今の今まで生きてきた。
教師になることが私の幼い頃からの夢だったからだ。
そして……彼、廉太郎自身もそれを望んでくれた。

私達は親たちが思っている以上に、親密でお互いを想い合っていたのだ。
廉太郎は、「俺を選ばなくてもいい。葉子が好きなように進めばいいよ」と、軽く肩を押してくれた。
いつも彼の優しさと、深い愛情に胸がいっぱいになる。

彼は決して生まれてきた家を恨むことも、自分の不幸を嘆くこともしなかった。
そんな彼をとても尊敬しているし、やはり私は……廉太郎のことが好きだと改めて思う。

だから……私は彼と約束をした。
この道を選んで良かったと心から思えたなら、私は廉太郎のもとに帰ります。…と。


その時は……生涯あなたと連れ添うことを
許してくれますか?


廉太郎は、向日葵のような優しい笑顔で


―――もちろんだよ。


と、私の手をとった。



これは私の我儘だと分かっていたけど…。
廉太郎の優しさに甘えてしまった。




――私が今受け持っている生徒達が卒業したら……
私も彼らと共にこの学校を去ろう――


心の中でそう決心が着いた頃だった。
私は放課後、自分の受け持っているクラスの男子生徒に声をかけられた。


「あ、あの!…もし良かったら…お、俺と一緒に帰りませんか?」


やっとの思いで口に出したであろう男子生徒のその言葉に、私は暫し固まってしまった。
これは……やはり…そういうことなのだろうか?
今まで少々ガサツに振舞ってきた為か、生徒からこのようなアプローチをされたことは皆無だったので、自分をそのような対象と見てくれたことに、まず驚きを覚えた。

好意を持たれて嬉しくない筈がない。
だが……私は教師だ。
必要以上の好意は……あまり宜しくはないだろう。
それに、私には廉太郎という心に決めた人がいる。
私が、こんな純粋無垢な少年の気持ちを受け入れていいわけがないのだ。

本当に…申し訳ないが。。


「お馬鹿。年上をナンパしてんじゃねぇよ〜。さっさと家に帰って勉強しろ」


『素敵な男性になってね。女のコ泣かしたら駄目だぞ』


私は肩に教科書を抱えると、いつもの調子で男子生徒を小突き、軽やかに階段を降りた。



「青春しろよ…!若人たち!」



そう呟いた声は
放課後の学校に響いた
軽快なステップ音にかき消された。























実&

後に、二人は仲直りするが、二人の間に深い溝が出来てしまう。
卒業後、徹は失恋のショックはあったものの睦実と同じ大学に通い、少しずつ彼女を意識し出すようになる。
その後…二人は付き合うが上手くいかず別れ、別々の道を進む。
徹は、勤務先の女性と職場結婚。幸せな結婚生活を送る。
睦実は、バリバリのキャリアウーマンになり30を過ぎても独り身でいる。





















相変わらずフラフラとしているが大学に通い、運命の女性と出会う。
しかし、彼女が事故に遭い植物状態になったのを機に医者を目指す。



















徹たちが卒業した後、寿退社。
許婚である橘廉太郎と結婚する。
その後も、家業を継ぎ幸せな結婚生活を送っている。





















平&

恭平と紫は高校三年になってから付き合い始め、卒業後一度別れるもすぐにまた縁りを戻し、その後スピード結婚。
二児の母となる。
睦実との親友関係は健在である。









あきゅろす。
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