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昔どこかで聞いた覚えがあるが『騙される方が悪い』とは一体誰が言い始めたことなのだろうか、出来るならソイツを俺の前に連れてきてほしい。俺はソイツを全力で殴って説教したい気分だ。

何故かって、そりゃ俺が一番騙されたくない奴に、意図も簡単に騙されたからだ。

騙した張本人といえば今も目の前で胡散臭い笑顔で此方を見ている。こっちを見るな。笑顔を振り撒くな。気色悪い。

熱烈な視線を冷めた目で一掃してこれでもかってくらい嫌な視線を逆に送ってやったさ。そりゃあもう谷口あたりにでも使ったら、そそくさとその場を退散するんじゃないかってくらいの俺的ベスト3に入りそうな嫌な視線をな。

なのにコイツと来たら涼しそうな顔で俺に絶望を与える一言を言ってのけた。

「そんな熱い視線を送らないで下さい。押し倒したくなります。」

……ありえない。ありえないだろ。バカというか変態だ。オマエは都合の言いようにしか物事を解釈しないタイプだろ?

「そうですね。否定はしませんが、主にそれは貴方絡みの場合なら、ですがね。」

嬉しくもなんともない発言ありがとよ。出来るならオマエの思考回路を見てみたいぜ。

ドン引きする俺に気付いてるくせに、さも気付かないふりをしながら古泉は相変わらずな笑顔で何がそんなに楽しいのかニコニコニコニコしていた。


そうそう、俺がコイツに騙された件だがなんとも幼稚な手にひっかかってしまったのだ。

それは今から30分程前の場所は変わらずこの部室で。珍しく俺が一番乗りで部室に来て朝比奈さんでも来ないだろうかと特にすることもなくいつもの席でボーっと待っていた。まぁ来たのは朝比奈さんでも長門でも、はたまたハルヒでもなく今目の前にいる古泉なのだが…。

なんでも今日は重大な話し合いをしたいから帰ったら死刑だそうだ。そんなことを言い出したハルヒは何をしているのか遅れてくるらしい。

だから古泉が爽やかな笑顔で『貴方だけですか。』とか『なんだか新鮮ですね。貴方と二人きりだなんて。』とか言われて寒気がしたって俺は我慢して部室にとどまった。出来るなら即帰りたかったがな。古泉なんかに言われてもときめくわけがない。残念だったな。そんな台詞オマエの周りにいる女の子達にでも言ってやれ。多分皆嬉しさのあまり失神でもしてくれるさ。

まぁそのへんは一先ず置いといて、なんともくだらないやり取り(この場合古泉が一方的に寒い事を話しているだけなのだが…。)をしながらも俺は待ったのだ。もうすぐ来るであろう朝比奈さんetcを…。


『みなさん来ないですね。』

『………そうだな。』

『どうしたんですかね?』

『………さぁな。』


なんて非生産的な会話なのだろうかと若干の虚しさを感じつつも俺なりの優しさを込めて相槌を返していた。普通、こんな適当な相槌なんてされたら嫌な顔の1つや2つするんじゃないかと思ってたけどな。案の定というか古泉の奴は表情1つ崩さないで俺の適当な相槌に満足そうに笑っていたのだ。

いつかコイツのガチガチに被った仮面を引き剥がしてやりたい。その時コイツがどんな顔をするのか考えると無駄にワクワクした。まぁ俺にそんなスキルがあればとっくに試しているがな。


『あの、ひとついいですか?』

『……なんだ?』

『アナタの後ろの黒板に小さな文字で何か書いてあるみたいなのですが、なんて書いてあるか分かりますか?』

『黒板に?…どれだよ?』


今この時僅かに感じた違和感に俺は気付くべきだった。古泉の言葉を素直に信じた30分前の俺を哀れんだね。

そんな哀れな俺は振り返り黒板に書かれているであろう小さな文字を探した…が、まぁ言わなくても分かるかもしれないがそんな文字どこにもなかった。


『すいません嘘です。前から思っていたのですが、貴方のうなじはとても綺麗だと思いまして。』

『うわぁあっ!?』


古泉は俺の耳元でご丁寧にそう囁きながら最後は息を吹きかけてきやがった。突然の出来事に俺は身体をこわばらせ変に高い奇声をあげてしまった。


『そんなに感じましたか?』

『オマエ…本気で医者行け!!くそっ最悪だ…!!』

『おや、それは失礼しました。』


コイツ、絶対悪いなんて思ってないな。忌々しいにも程があるぞ。


『いいか、俺に近付くな話しかけるな微笑むな!!』

『それはまた難しいお願いですね。』


守る気なんてないくせにわざとらしく困った顔をして肩をすくめる古泉にエルボーをくらわせたくなる俺の心境は間違っちゃいないはずだ。それくらい気にくわない。

ハルヒにはイエスマンのくせに俺には何故そう天邪鬼なんだ。


『貴方と涼宮さんは違いますよ。貴方の言いつけを守りたくないのは、貴方に近付くことも話しかけることも出来ないのはとても辛いので。ほら、好きなら積極的にいくべきだと思いませんか?ちなみに前にも言ったかもしれませんが笑顔はもう癖のようなものなので気にしないで下さい。』


気にする。おおいに気にするぞ、古泉。笑顔が癖のようだとかどこのアイドルだお前は!?

そしてサラッと何好きだのなんだの言ってるんだ…勘弁してくれ。俺の小さな小さな脳みそをこれ以上酷使させてくれるなコノヤロー!

わざとらしくでかい溜め息を吐けば向かいのイエスマンもとい天邪鬼は今までの話なんてなかったかのように部室のドアを見ていた。


『涼宮さん達、そろそろ来ますかね?』

『…どうだろうな。』


そっけなく答えてムカツクくらい整った古泉の顔を見れば目が合って、睨んでみたら今に至るわけだが…押し倒したいだの何だのとコイツは何が楽しくて俺なんかに言うのか皆目検討もつかないね。

ただこれがもし、ハルヒや長門、朝比奈さんに古泉が愛を囁いていたらと思うと背筋が凍るような気持悪い感覚と、そこにひっそりとある違った感覚、胸が絞めあげられる痛みに似た感覚を感じ俺は気付かないフリを決めこんだ。

だってそうだろ。これじゃあまるで俺も古泉を好きで変な想像して嫉妬してるようではないか。


なんとも有り得ない方、有り得ない方に思考回路が働きだし、俺は本日何度目か分からない溜め息を盛大に吐いたのであった。


END

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