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きっといつか離れてしまうと思えば思うほど、どうしようもなくこの手で掴んでおきたいと思うことは…ワガママなのでしょうか?


━━━━………


深夜3時過ぎ。
最近この時間によく目を覚ます。彼が自分から離れていく夢を見る。これを悪夢と呼ぶなら僕は1週間程この夢にうなされている事になる。

必死に手を伸ばして掴もうとするのに掴めないまま、彼は彼女の元へと行ってしまう。
それが本来望まれるべき未来なのは分かってる。それなのにソレが起きることをこんなにも拒絶するのは何故なのか。今の僕には分からないでいた。

汗を流し、荒い息をしながら身体を起こすとジメッとした湿気を感じる。

今のは夢だと分かっているのに身体は自然と震えだし頭が痛い。
いつから自分はこんなに弱くなったのか、情けなくて嫌になる。

汗で濡れた前髪をかきあげ枕元に置いてある携帯を取った。

来るはずのない彼からの連絡。
ならば今自分が電話をしたってきっと彼は夢の中だ。明日何か聞かれても適当にはぐらかせば問題はないだろう。

1%程の望みをもってアドレス帳から彼の番号を探しゆっくりと通話ボタンを押した。


1回2回と静かに相手を呼び出す音が耳に響く。あと3回鳴らしたら切ろう、そう思った矢先呼び出し音が止んだ。


「………………。」

声が出ない。出るはずがないと思ったから、だからかけたのだ。
話す事があったわけじゃない。
何を話していいか分からない。

けれど確に電話の向こうに彼がいて、静かに呼吸をしながら僕が何か言うのを待っているのだ。


『………おい。』

痺を切らしたのか彼が呼び掛けてくる。それすらも驚きと戸惑いで返事が出来ないでいた。


『お前、寝れないのか?』

「いえ…寝てたんですが、変な夢を見て起きてしまいました。」

彼はそれがどんな夢かは聞かずただ静かに"そうか"と呟くだけだった。

こんな夜中に起こされて。きっと眠いだろうに切りもしないで僕の話を聞いて。

何故貴方はそんなに優しいのか。
どこまでもその甘さに頼りたくなる僕はどんどん弱くなっていくというのに。


「僕は、貴方の声が聞きたかったんです。すみません、こんな夜中に。」

謝っても謝っても、心のどこかで喜んでる自分がいた。

いつか離れてしまうとしても今の彼は僕をまだ見捨てはしないだろうと思えたから。


『嫌でも毎日俺の声なんて聞けるだろ。…とりあえず、満足したならもう寝ろ。』

「はい、おやすみなさい。…また明日。」

『おやすみ。』


5分もかからないで通話は終わりを告げる。

耳元に残る彼の声は眠いのに無理に我慢して起きていた声だ。少しかすれたテノール音。

先程の悪夢が嘘のように今は心地良かった。




いつか彼は彼女の元に行ってしまう時が来るだろう。

ワガママでもいい。
叶わなくてもいい。

とても好きなんだと。
それでも気付かされた僕はきっと手を伸ばすのだ。

掴めないその手にすら1%の希望を信じて…。


END


━━━……
そしてキョン視点へと話は続きます。

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あきゅろす。
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