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今日の予定は近くのスーパーで食材を買い出しに行ってからオムライスを作る事。

家に招待したのは僕だがスーパーに行くと言い出したのは彼だった。

なんでも放っておけば栄養ドリンクで生活しようとする僕が心底有り得ないらしい。育ち盛りの高校生なのだから必要最低限食べろと何度も言われていた。

"どうせなら僕の家で料理をしてくれませんか?"と先日冗談半分で言うと、彼は少し考えてから"俺だってそんな料理出来ないぞ"と言葉を濁しながら了解したのだ。


嬉しさと少しの驚き。
昨日の夜は遠足前の子供のようになかなか寝付けなかった。



「いいか古泉、お前のポケットマネーがどんだけ肥えているかは知らないがなるべく安くて質の良いものを買えよ。ケチャップとかは98円の特売品でいいからな。」

「そうなんですか。さすがですね。」


スーパーに着くや否や彼はカゴをしっかり持ち、どんな物を買えばいいのかを親切丁寧に教えてくれる。
驚きながら称賛の声をおくると彼はウンザリしたような顔で此方を見た。

「これぐらいで大袈裟だな。」

「いえ、本当に凄いと思っているんですよ。こういう事に関しては誰よりも無知なものですから。」

「無知過ぎるんだよ。難しい数式とか簡単に覚えられるんだからこんくらい楽勝だろ。」

「やる気がない時点で多分なかなか覚えられないでしょうね。貴方が1週間に1回くらいご飯を作りに来てくれれば僕は幸せなんですけど。」

「俺を何だと思ってんだ!……いや、待て。お前マジで放っておくと何も食べないからな…………その、しばらくは…考えてやらんこともない。」


予想外の返答だ。
てっきり"ふざけるな"とあっさり流されると思っていたのに、その返事は反則もいいところだ。

彼は気付いていないのだろうか。
それはまるで"通い妻"のようであるという事を…。


「ありがとうございます。期待してますね。」

「言っておくがお前が栄養失調で倒れでもしたら後が大変だから仕方がなくだからな!!」

「大丈夫ですよ。今はそういう事にしておきますから。」


素直じゃないところも愛しく思える。

クスクスと笑いが止まらないでいると彼は恥ずかしそうに耳を真っ赤にして先に野菜コーナーへと向かってしまった。


僕の笑いが止まらないのは貴方のせいですよ。
そんな可愛らしい事言われれば誰だって嬉しくなるじゃないですか。


ゆっくりと彼を追い掛けながらふと今の自分達は周りにどう映っているのか気になった。

仲の良い友達にでも見えるのだろうか。

じんわりと優越感に似た感情が込み上げてくる。

今の彼には彼女ではなく僕しか映っていないことにこの上なく幸せを感じた。


いつかオムライスの作り方を覚えて彼に食べさせよう。

きっと彼なら"まぁまぁだな。"なんて言いながらも食べてくれるに違いない。


小さな小さな計画を立てつつ、角を曲がると彼が眉にシワを寄せて待っていた。


「遅いんだよ。カゴ、重くなってきたからお前が持て!」


"すみません"といつの間にか様々な野菜が入っていたカゴを受けとると彼は小さな声で"忌々しい"といつもの口癖を言っていた。

それは僕に対してか、それとも自分自身にか。



貴方がどんなに他意であったとしても。
それでも僕は思うんですよ。
この時間が続けばいいとね。


END

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