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「久しぶりだな」

「そう、ですね」


僕の目の前にいる人物。四天王チャンピョンだった事もある人。そして、あの四天王事件を引き起こした張本人、ワタル。
あの事件以来、姿を見ることも風の噂を聞くこともなかった。そんな彼が何故、いま自分の目の前にいるのか。
ぐるぐると思考が混乱してくる。ここは、どこだったか。ああ、トキワシティだ。

チュチュが、僕の肩へ登ってきてワタルを威嚇する。
ボールに入っているラッちゃんたちもワタルの様子を伺っているのが分かる。


「安心しろ。俺はお前たちのパートナーを傷付けに来た訳ではない」


一瞬、本当に一瞬。ワタルが微笑んだ。一瞬だけど分かった。それはとても優しい瞳で、あの時の彼とは到底同じ人物だとは思えないような。


「…何だ?」

「いや、ワタル、変わったなあと思って」

「そうか?」

「うん。だってほら、チュチュたちの様子が変わった」

「そうか」


まだ警戒は解いていないけれど、威嚇はもうしていなくて。寧ろ戸惑っているみたい。当然だ、僕だって戸惑ってる。
四天王事件以来、顔なんて合わせていなくて。あの時だって、敵同士だった訳で。
それでも、あのときに感じたワタルとはとても雰囲気が柔らかくなっていて。どう話していいか全然分からない。
けれど、不思議と怖さは感じない。


「どこかに行く予定だったんですか?」

「…いや、特には。たまたま立ち寄っただけだ」

「そうですか。なら、家に寄っていきませんか?」

「何故」

「何故って…、ワタルの生まれ故郷なんでしょう?チュチュたちも、今のワタルが気になるみたいだし」


チュチュたちの感じていることが手に取るように分かる。僕も同じだから。

もう少し、ワタルを知りたい。


「変わらないな」

「でしょう。この森は、いつまでも変わりませんよ。ほら、みんな出ておいで」


ラッちゃんたちを一斉にボールから出す。いつもならすぐに自分たちに好きなところに散らばるのに、今日はみんなで集まってじっとワタルを見ている。
その中で、ワタルの足元へ進んでいったのはチュチュ。そろり、そろりと近づいていく。


「…なんだ、俺はお前たちを傷つけた張本人だぞ」


そう言いながらチュチュを抱き上げるワタル。とても優しく、抱き上げた。
この時になって思い出した。ワタルは、元はポケモンたちの為に戦いを始めた事を。ポケモンに優しく接することが出来ない訳、ないのだ。
それに気づいたのか他のみんなもそろりそろりとワタルに近づいていく。


「ふふ、」


思わず、笑ってしまった。僕のポケモンたちがワタルの傍にいる。すごく違和感のある光景なはずなのに、何故だかそうは感じなかった。


「…何だ、」

「いいえ、気にしないで下さい」

「気にするな、と言う方が無理だろう」

「いやいや、本当に気にしないで下さい。あ、家に寄っていって下さい。お茶、出しますよ」

「…ああ、」



「はい、どうぞ」

「ああ、すまないな」

「もうすっかり打ち解けちゃいましたね」

「ああ…、」


外に目をやると、ワタルのカイリューとチュチュたちが楽しそうに遊んでいた。
四天王事件など、なかったかの様に。あれだけ戦った相手だと言うのに。


「……」

「……」


ち、沈黙だ…。
何も考えずに家に上げてしまったけれど、どうしよう話すことがない。


「お前は、」

「へっ?あ、な、何ですか?」

「お前は、変わらないな」

「変わらない…?そうですか?これでも背とかはそれなりに伸びたほうなんだけど」

「そういう意味じゃない。中身が、だ」

「んー、よく分からないですけど」

「お前はそれでいい」

「はあ…」


ワタルの言葉に、頭を捻らせてみるけどやっぱりよく分からない。僕は僕だし、変わる変わらないなんて自分じゃ余計に分からない。
ワタルの言葉を反芻していると、チュチュたちが家の中に入ってきた。
息を切らして、とても楽しそうに。カイリューも中にと呼んだらしいけれど、カイリューの高さは2メートル以上ある。流石に入れないと分かっているのか、カイリューは少し困ったように笑っていた。


「さて、そろそろ帰るぞ、カイリュー」

「え、もう帰っちゃうんですか?」

「ああ、少し用事を思い出した」

「そう、ですか」


どうしてだろう、ほんの少ししか話していないのに、随分長い時間一緒にいたような気がする。
それはチュチュたちも一緒のようだ。あんなに楽しそうだった表情が、今はとても寂しそうな顔をしている。


「また寄らせてもらう」

「え…」

「カイリューも、また一緒に遊びたい様だ」


チュチュたちと同じ目線になるように跪いて、そう言った。その瞬間のチュチュたちの嬉しそうな顔といったら。そして、何故か僕も。


「じゃ、気を付けて」

「ああ。お茶、美味かった」

「どういたしまして。待ってますね」

「…、ああ」

「あ、うん…あの、チュチュ、たちが」


あ、危ない…!一言足りないだけで意味がかなり違ってくるよ…!

…もう少し、ワタルと話したかったと思ってしまったのはしばらく内緒にしておこう。
だって、これじゃあ。
まさか、だよね?


◎あとがき
モカdeラッテのらータンさんへ相互記念小説です。リクエスト内容は「イエローの手持ちのポケモンがらみの、ほのぼのワタイエ文」でした。
ほのぼの…?てか二人くっついてなーい!!もし宜しければお納めくださいませ…!






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