「ワタルのバカッ!もういいもんっ!」
そう言い、イエローは家から出ていった。
慣れ親しんだ、今まで暮らしてきた森だ。迷うことはないだろうが、流石にポケモンも連れず出て行ったのは心配だ。どう宥めようかも考えてはいないが、まずは追うのが先決か。
外で遊んでいたカイリューにボールへ入ってもらい、残りのポケモンたちには留守番を頼む。家を出ていったイエローを心配している様子で、大丈夫なのかと俺を見てくる。
「ああ、大丈夫だ。ここを頼むぞ」
再度、留守を頼み俺も森の中を進んでいった。
事の起こりは数十分前。
最早住んでいると言っても過言ではない、イエローの家で二人でだらだらとしていた。
そこで急にイエローが、自分の事をどう思っているのか、と聞いてきた。
ここまで来ておいて、とも思うが、イエローへは勿論他の人間とは違う感情を抱いている。
それが、以前は敵同士であった事や、十も歳が離れている子どもだと踏まえていても、だ。
勿論、一人の女として大事に思っているつもりだ。だが、それを言葉にした事は今までなく、それを聞いてやはりイエローも気になるのかと、他人事の様にそう思った。
俺がどうしたものかと考えていると、痺れを切らしたのかイエローが口を開いた。
「一回くらい言ってくれたって良いじゃないですかっ!」
「…言わなくとも伝わっていると思っていたが」
「わ、分かるけど…っ、でも言葉はまた違うもん!」
「…俺はそう言うのが苦手なんだ。分かるだろう」
「わ、分かんないもん!ワタルだって僕の気持ちなんて分かんないじゃないか…!」
そして、話の冒頭に続き今に至るという訳だ。
イエローは、何かあると必ず行く場所がある。探すのには時間はかからないだろう。
問題は、どう宥めるか。
俺が気持ちを伝えてしまえばいいのだとは思う。だが、今までそれをしてこなかった俺にとって、言葉で伝えるのは中々難しい。
結局どうするかも決まらぬまま、イエロー(が居るであろう場所)の元へ着いてしまった。
周囲を見回してみると、この森で特別大きい木の下から一つに結った長い金糸が見え隠れする。
「…イエロー、」
「…………」
名前を呼ぶと、ちらりとこちらを見てすぐに顔を背けられてしまった。
目が、赤いように見えた。
「イエロー」
「………何ですか」
返答はあったが、ぶっきらぼうな物言いだ。
やや、鼻声の様な気もする。
「いや、まあ…悪かったな」
「……謝って欲しい訳じゃない、です…」
「………そうか」
「僕、は…別に、無理矢理聞きたい訳じゃないんです…」
イエローが言いたいことは、分かっているつもりだ。
イエローも、俺の考えていることは分かっているんだろう。
今ここで、例え俺があの言葉を言ったとしてもそれは全く意味のない言葉になってしまう事を。
「ここは寒い。帰るぞ」
「…うん」
カサカサと地面に落ちた枯れ葉を踏みながら家へ戻る。
身長差から、更に俯いて歩くイエローの表情はこちらからは全く読み取れない。
「…ワタル、」
「何だ?」
「…今度で良いんで言ってくださいね」
「…ああ、分かった」
更に歩いていけば、留守を任せたポケモンたちがこちらに気づいたようで心配そうに近付いてきた。
イエローが俺から離れ、ポケモンたちに駆け寄る。そして、ポケモンたちにふわりと笑顔を向けて話す。
「心配かけさせちゃったね、ごめんね」
俺も少し遅れて、ポケモンたちとイエローの元へ。
「ワタル、そんなに心配してくれたんだ」
「……聞いたのか」
「内心、結構焦ってたみたい、って言ってるよ」
「……好きな奴の事だったら当たり前だろう」
「…………うん、そうだね。ありがと、ワタル」
一瞬目を見開いた後、小さく笑って俺の腕を掴んでくる。
くすくすと笑うイエロー。それは、最早子どものそれではなく、心臓が少し鼓動を速めた。
「僕もワタルが好きです」
「ああ、知っている」
「ですよね。僕も知ってます」
◎あとがき
ワタイエオフ会前に副主催、らータンさんとお話させてもらった時に「ワタル視点の話を書く!」と意気込んだはいいものの撃沈しました、よ^p^
11.02.12
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