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「…ふう、こんなものかな。チュチュ、そろそろ帰ろうか」

「ピチュッ」


トキワの森で木の実採取。料理に使う分と、ボールにしてもらう分。


「チュチュ、重くない?」

「ピッピチュ!ピカ!」

「そう?じゃあ家まで頑張ろうね」




「………あれ、」


家が見えてくる所まで戻ってきた。
何だか人影が見える。お客さんかな?誰とも約束はしてないんだけどなあ…。
そう不思議に思いながらも家に近づいていく。
すると、聞いたことのある声で名前を呼ばれた。


「イエロー、久し振りだな」

「へ?わ、ワタル…?え、何で…?」


イエロー、と声を掛けたのはワタルだった。
とても久しぶりに顔を合わせたというのに、つい昨日も会ったみたいな言い方で、普通に返答するところだった。


「…何でここにいるの?」

「俺だってこの森出身だ。いてもおかしくないだろう」


さも当たり前のように(いや、間違っているわけではないのだけど)、しれっと言い放つワタル。


「そりゃそうだけどさあ…。あ、家…どうぞ、」

「…ああ、すまないな。邪魔をする」


ひとまず、こんな所で立ち話もなんだし家へ通す。
ワタルも同じ事を思っていたようで、遠慮がちにではあるけど家の中へ入った。

居間へ案内して、くつろぐ様言い、僕はお茶を準備するべく台所へ。
そこで、気づいた。


「…ワタルって僕の正体知らないっけ…」


どうしよう、家だから帽子を取らないのは変だし。でも帽子を取ったらバレちゃうし。
…いや、バレちゃいけないって訳ではないんだけど。


「やっぱり帽子を取らないと女の子って分かんないよね…」


何故か、それが少し悲しくて。
どうしてかなんて分かんなくて。でも、帽子を被っている僕を、誰が女の子だと思うだろう。

そんな事を悶々と考えていたら、お湯の沸く音がして一気に現実に引き戻された。


「おまたせ」

「ああ、悪いな」

「紅茶でもいい?僕の家、コーヒーとかないんだ」

「ああ、構わない」


紅茶が入ったカップ、後はミルクと砂糖をテーブルにいくつか置く。(勿論コーヒーミルクとスティックシュガーだ)
まあ使うのは僕だけだろうけど。


「……随分たくさん入れるんだな…」

「そうですか?これくらい入れないと甘くならないんですよ」


僕が入れたのは、通常サイズのマグカップに対し、ミルク2つに砂糖を3本。あ、ちゃんと砂糖はカロリーオフのもの。
……子供だって思われたかな。まあ、実際目の前にいるこの男からすれば十分子供なんだけれど。

それからまあ、他愛のないというかポケモンのというか、だらだらと話を続ける。
…こんなにも話が続くとは思わなかったなあ。

そして、とうとう彼があれを口に出した。


「イエロー、」

「はい、何ですか?」

「どうして室内で帽子を被ったままなんだ?」

「………………」


ああ、聞かれちゃった。
まあ気になるよね、そりゃ。
半ば諦めの様な気持ちもあったり。けど、半分はどう誤魔化そうかと必死に頭をフル回転させる。


「……今は男装をする必要もないだろう?」

「いや、僕、帽子が大好きで…………え?」

「今は旅も危険なだけではない。それにお前は十分強い。男装なんかせずとも大丈夫だろう」


……彼はなんと言った?
男装?

男装っていうのは、女の子が男の装いをするって事で。
まあ僕は生物学上は女であるから、ワタルの表現の仕方は正しい。
しかし、僕はワタルに自分の性別を明かしたことなどない。
勿論、他の図鑑保有者(先輩や後輩たち)が伝えたなんて事も有り得ない。
だって、僕の事を彼に話す理由がないから。

じゃあ、何故?


「どうした、急に黙って」

「あ、あの…」

「何だ?」

「どうして僕が女の子だと…分かったんですか?」

「いや、誰がどう見たって女の子だろう」

「いやいや、誰がどう見たって男の子ですよ」


未だにこの恰好では間違えられるというのに。
まあそれは、年を経過しても成長してくれないこの体にも原因はあるけれど。


「どこをどう見ても男には見えないが…まあいい。とにかく帽子を取ったらどう
だ?」


もう隠す理由なんてないだろう?
そうワタルは付け足した。


「…う、…は、はい…」


ワタルの意見はごもっともだけど、こんな雰囲気の中で、なんて居心地が悪くて仕方がない!
声には出さず、心の中でえいっと唱えて帽子を取る。
今まで隠していた、未だ伸ばし続けているポニーテールが出てくる。


「…と、取りました、よ…」


ただ見られるだけなのに。
他の人にはこの姿が当たり前だと、そう思われるくらいになったのに。
何故だか、緊張してしまう。


「随分と伸ばしているんだな」

「あ、ああ。そうですね…毛先を揃えるくらいしか切ったことないし」

「そうか」


そう一言放って、ワタルは紅茶に口を付けた。

え、それだけ!?

ここまで引っ張っておいて!ここまで緊張させておいて!そうか、の一言のみな訳!?
べ、別に他の言葉が欲しかったとかそんなんじゃないけどさあ…。

何だかなあ、と不満に感じながらも僕も紅茶に口を付ける。うん、甘くて美味し
い。


「…あ、そう言えばワタルは何をしにトキワまで?」


何となく聞いてみただけ。
ワタルの故郷はトキワだし、別に様子を見に来るのだって変じゃない。
だけど。ただ、それだけの為に僕の家の前にいたのは何でだろう。話してみても、特別な用がある訳ではないらしい。(まあ、ワタルが僕に用事だというのもあり得ない位なんだけれど)


「………………ああ、」


いやいや。ああ、じゃなくてーっ!!
理由を聞いてるんでしょ僕はっ!


「……ああ、じゃなくてさ。あ、もしかして迷ったとか?」

「誰が迷うか」

「まあ、そうだよね。なら、どうして?」

「………お前に、イエローに会いに来た」

「……へっ?」


え、会いに来た、って僕に!?ななな、何で…!?
何か僕に会いに来るような理由なんてあったけ…いや、ないよ…無さ過ぎて悲しくなるくらい無い。


「…俺は今まで一人で生きてきた、と思っていた。あの事だって、俺一人では何も出来なかったのに、気づこうとしなかったんだ」

「………、」


ワタルの言う『あの事』は勿論あれだろう。
四天王との戦いの事。
みんな傷ついた。体も、心も。勿論それはワタルだってそうだろう。


「だが、それを気づかせてくれた。イエロー、お前に」

「そっ、そんな、僕はただ…悲しくて、それで…」


僕は今まで、人間とポケモンは一緒にいるのが当たり前だと思っていた。
勿論、ラッちゃんたちもそう思ってくれていた。
だからこそ、人間とポケモンとの事をあんな風に思っている人がいた事が、とても悲しいく思えたんだ。


「それで良かったんだ。でなければ、俺はまた同じ事を繰り返すだけだっただろうな」


ぽんぽん、とワタルが僕の頭を撫でる。
初めて見る笑顔で。
何だか無性に恥ずかしくなって顔を隠そうと思ったのに、帽子を外してしまって
いたのでそれも適わなかった。


「なあイエロー、」

「…な、何ですか…?」

「また顔を出してもいいか?」

「もっ、勿論!いつでも!」

「即答だな」


吹き出すワタルに、僕も思わず吹き出す。
気づいたら、紅茶はもうすっかり冷めていた。





「じゃあ気をつけてね、ワタル」

「ああ、今度来るときには連絡を入れる」

「そうだね、その方が助かるな。…あ、そう言えばどうして僕に会いに来たの?他のみんなには会った?」

「いや、お前にしか会いに来る気はなかった」

「どうして?みんなも心配してるよ」

「そんなに気になるか?」

「気になる」


僕が即答するとワタルは、に、と笑って僕の額に軽く口づけた。
多分この間たったの数秒。


「な、な、な…っ!」

「まあそう言う訳だ。また来る。紅茶、美味かった」


そう言ってワタルは楽しそうに(いや、面白そうに)笑い、カイリューに乗って空へ飛んでいった。


「…次どんな顔していいか分かんないよ…!」


その日、なかなか顔の火照りが消えなくて。
何でワタルはあんな事をしたんだ、次に会うときどんな顔をすればいいんだと考え過ぎて、仕舞いには知恵熱を出してチュチュにかなり心配されてしまった。

まずは次に会ったら文句を言ってやる、そう心に決めた。


◎あとがき
ぴくしに上げたもの3。1年くらい放置してたのを、0211、12のワタイエオンリー参加することになった時に勢いで書き上げたもの^^

11.02.12




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