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私が謙也と知り合ったのは五歳の頃。なにせ家が隣だったもんだから嫌でも顔を合わせる。

『まーてーけんやー!とまりやがれー!』
『おそいで自分。ま、なにわのすぴーどすたーにはおいつけんっちゅーはなしやなー!』

いつも見ていたのは謙也の背中。コイツは脚が早くて一度も追い付いた事がない。覚えたての言葉を使って私を引き離す謙也が憎たらしくてたまらない。勝ってるのは身長だけ。まだ幼稚園児だから大きいのよ私の方が。ランドセルを背負うまで、背中ばっかり見る日が続いた。

真新しいランドセルをしょって登校した日。同じ教室には…いたよ謙也が。この頃には身長も越され、結局脚も追い付けず、謙也との距離は開くばかりになっていった。

『今年は…あ、私二組だ!』
『なんや、自分また俺と同じか』
『うげ、マジかよ。なして六年連続謙也と一緒なん?』
『ま、えぇやん。今年こそは越してみぃ』
『絶対足蹴にしたる』

確かこんな事も言ってたっけな…考えればいつ見ても同じ空間にいる謙也。小学生だからかやっぱりアホな事はよくやるしやられる。互いに子供だからそれにいちいちムキになったりしていたのもまたいい思い出。小学校の頃のアルバムを開いてみれば謙也とのツーショットが密かに一番多かった。
ランドセルを卒業した後、真新しいワンピースの制服を身にまとって親と一緒に写真を撮った時。えぇそれは見事に謙也も一緒に写ってましたさ。
なんの違和感ない二組の家族のツーショット。そして同じ空間にまた当たり前のようにいる謙也。でも、小学生の頃とはもう違う。
思春期、なんて言えばなんかかっこいいような気がしちゃうけど、私と謙也には明らかな差が生まれていた。今までと同じようになんて出来ない。身長はどんどん伸び、見上げないといけないくらい大きい謙也。腕も脚も、身体の逞しさも私なんかとは当然違う。テニス部に入った謙也はどんどんテニスも上達していつの間にか全国区。少年みたいな無邪気さも残しながら大人になりつつある彼は、もの凄くモテた。

『ねぇ忍足君かっこえぇよね?』
『ウチもそう思うわ!えぇよね忍足君!いいなぁ幼なじみとか』

こんな事を聞くのがいつの間にか日常になりつつあった。
クラスはまたもや三年連続同じ。こうなれば最早陰謀かと思う。ただ、小学校の頃と違って、謙也は遠くなった気がした。
テニス全国区の彼となんの変哲もない軽音部の私。
男と女、それも相まってか昔ほど一緒になにかあったりはなくなった。家は隣なのに、なんでこんなに遠いんだろう。
どうして、私と謙也じゃなくて男と女になっちゃうんだろ。自然の摂理なのに、なんだか寂しい。 謙也が離れていくようで、寂しい。
そう思ったある日。

『自分の事…好きや』

幼なじみな彼からの、告白。
あまりの事に色んなものがぱぁんと飛んだ事は今でも忘れられない。顔を真っ赤にしていた謙也の顔は今でもちゃんと思い出せる。

『私…謙也との距離が離れるのが、寂しいと思った、の…謙也はどんどん人気者になって、でも私は何も、なくて…私、謙也のそばが………好き、なのに…』

きっと私の顔も真っ赤だった。
好きとか嫌いとかそういうのが分からない中で告げた言葉。意味が上手く伝わったかは分からないが、とにかく私はもう謙也と一緒にいるのが当たり前で、離れてしまうのが嫌で。それだけを伝えてみた。
そうしたら実に嬉しそうな表情で彼は私を包んでくれた。大きな身体はもう立派な男の人で、私の手をいとも簡単に包めてしまうごつごつしたテニスをしているスポーツの手も男の人。少し早く動く心臓につい笑ってしまったら唇を塞がれてしまった。初めての、キス。一瞬触れ合っただけだったけど、確かに私の唇には柔らかくて自分とは違う体温があった。

高校も特に何も考えないで決めたら案の定謙也がいた。互いに制服を着た姿を見つめて笑いあっていたらテニス部のメンツにからかわれてしまった。ただ、しっかり写真は撮ってくれたんだけどね。

『なぁ、テニス部のマネージャーやらへんか?』

高校になって誘われたマネージャー。驚きはしたものの、謙也と一緒にいる時間が増えるのと謙也の役に立てるのとあってふたつ返事。大変だったけど、凄く楽しかった。この頃の写真はテニス部のメンツとばっかりだ。謙也が大切にしていた世界。この中に私も入れて貰えたのは本当に嬉しかった。
それと…初めて謙也と…結ばれたのもこの時。
その時触れた肌の感触や体温は一生忘れられない。いつもよりも低くて掠れた声に身体がびくりと震える。謙也の指が、唇が、舌が私の身体を滑る度に、熱く繋がる度に脳が痺れてしまうほどの満足感を貰った。彼に愛される女でよかった、と本当に嬉しかった。

そして、今は…

「懐かしいねホントに。考えれば私、ずっと謙也と一緒だったね」

彼の横で懐かしいアルバム達を捲っている。写真を見ながら謙也の方を向けば、何年も前からずっと変わらない笑顔を私に向けてくれた。

「せやな。考えればホンマずっと…一緒やったな…ま、これからも一緒やけど、な…」

言いつつ私の頭を軽く撫で、頬にちゅっと唇を落としてくれる。少しこそばゆいけれど、幸せ。謙也を見つめれば左の薬指に光るお揃いの指輪が目に入った。

初めて謙也に会ってからもう何年経ったんだろう。まぁ考えてもきりがないだろう。だって謙也と離れた事、一度もないんだもん。同じ名字を名乗るようになるまでに私達は小さな喧嘩はしたけど結局離れるまでには至らなかったし。

「そうだね。これかも一緒…だよ。でも考えたら凄いや。私達、小さい時に運命の相手と出会えた事に…なるよね?」
「そやな。
 なぁ、俺と出会ってくれて、俺を選んでくれて…ホンマに、有難うな…一生幸せにしたる」

急に真顔になった謙也が至極真面目な言葉を言うもんだからその言葉に聞き入ってしまう。して、それは私の台詞だ。私こそ一緒にいてくれて有難うだし私を選んでくれて有難うだし、そもそもこうして出会えた事が有難うなんだから…
そんな言葉になんだか嬉しくなって謙也の胸に抱き付いたら私の大好きな体温が私を包み込んでくれた。


たぶん奇跡とかそういうもの
(ひとことで現してしまうと、そんなものになる)


これを奇跡と言わずして、なんと言おうか。

桐花さんが謙也を書くと恥ずかしい。
私は謙也はヘタレ…なのはありそうですが、基本的にものすごーく女の子に優しくて白石とは違う意味で気を使ってくれる方な感じ。最初の本気の恋がそのまんま最後の恋になるイメージもあります。
素敵な企画に参加させて頂きありがとうございました!

2012.1.19.Thu
kirika@No more
落としもの様提出済み。

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