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ずっと、見ていたんや。俺の横で無言で台本を読んでいる姿を。表情を変える事もなく、いつも頬杖を付いて台本を読んでいる。癖なのかこうしている時は前髪を引っ張ったりしとる。
時折薄く開く唇はきっと台詞を読んでいる。
細めた眼鏡の奥の瞳で見つめる視線の先には何が映る。
そのまま、休み時間が終わると台本を閉じた。


* * *


「次、何やるん?」
「ん…ピーターパンやな」

して、放課後再び開かれる台本。
読んでいるのは分かっとったが、つい声を掛けてみる。無視されるかと思ったが、一応返答がある。
俺の方を向かずに答える声は素っ気ないが、別段俺は気にせん。答えただけマシやしな。
答え終わるとまた視線が台本に戻った。
また無言で本を読むその姿を俺はただ見ていた。
別段会話はない。本を読む姿を見るだけの俺。
今回コイツは何の役をやるんかは知らんが、俺はコイツの演技に惹かれていた。
一度、見た事があった。別段目立つ役やない。だが普段素っ気ない態度を取り、愛想悪く向ける表情、何も手を入れてへん黒髪を三つ編みにまとめ、しかも眼鏡と如何にも目立たん姿をしているのに…舞台の上では違てた。
藤吉郎祭の時にやった演劇。
ヒロインの姫に寄り添い歌う。ただそれだけの役やったが…俺はすっかり惹かれてもうた。
眼鏡を外したその表情は柔らかい笑顔。抑揚無く普段話すん姿は聞いた事ない透き通った声。
普段の姿と全く違った姿。…違い過ぎて別人や思たし最初。
結局アイツの役はそれだけ。やったが、俺からしたら主役の姫より可愛ええと感じた。
眼鏡をしていて分からんかった少し吊り目の瞳は大きかった。

「…」

今、横にいるアイツは眼鏡。
レンズに隠れた目を縁取る睫毛は長い。どうせ台本に夢中やろとじっと視線向けとったら不意にアイツは振り返った。

「…謙也さっきから穴空くぐらいじっと見て。そないにウチは魅力的か?」
「は…?ちょ、寝言は寝てから言えや。自分のニキビの数数えてみただけや」
「阿呆か。ウチの肌はすべすべや」

急に何かと思った上に、振り返った顔は今まで見た事ない顔。妙に勝ち気に見えたその瞳は眼鏡越しでもはっきり分かる。
アカン、つい目ぇそらしてもうた。

「ま、ええけどな。ウチは見ても減らんと」
「…自分、何の役やるん?」
「ティンカーベル。ま、ウチが一番小さいからな」
「…また、見に行ってもえぇか?」
「…かまへんよ。ただ…」

開いていた台本を閉じる。そして俺の方を向くアイツ。
教室はいつの間にか俺ら二人きり。あ、そろそろ部活行かんとどやされる。
せやけど…向けられる視線から目ぇ逸らす事も動く事も出来へん。

「ただ、なんや?」
「…ティンカーベルはヤキモチ焼きなんや。だから、謙也はひとりで来ないとあかんよ。特に、女の子と来たら意地悪してしまうで」
「…」
「鈍感やな、謙也」


ぽかんとした俺を見ていた眼鏡越しの瞳は笑てた。


ティンカーベルを捕まえて
(手ぇ伸ばせば、掴めるんか?いや、掴む)


「あの人誰っスか?あんな可愛ええ子ウチのガッコいましたっけ?」
「俺の横の。ほら、あの三つ編み眼鏡の子」
「……手ぇ出しとけば良かったっス…」
「財前、一回シメたろか?」

end...

取りあえず関西弁に慣れたいというのとお題見てたら謙也が書きたくなったので書いてみたもの。最後の財前君は完全趣味(笑)
ティンカーベルをちと調べて性格やら仕草やらをヒロインにやらせてみました。しかし関西弁が胡散臭いのは拭えないのでそこはご了承下さい(笑)
参加させて頂き有難う御座います+

2011.12.10.Sat
kirika@No more
あの子は似合う様提出済み。

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