優しい嘘 「私は世の中に不満があります。」 優しい嘘、うれしい嘘、悲しい嘘。 どんな理由があるにしろ、嘘は所詮嘘だった。 私は、不満なのです。 嘘など、いらない。 ほう。 彼の瞳がぐるりと部屋を一周する。 彼は、歪んだものが嫌いである。何もかもまっすぐでなければならなかった。 そして、今、歪んだものを見ているときの、訝しげな顔をしている。 「じゃあ君に、優しい嘘をついてあげよう。」 私が返事をする間もなく、彼は言った。 「僕はね、君のこと嫌いじゃないよ。」 … その宣言付きの嘘に、私は大きなショックを受けるはずだった。が、なんだか少しほっとしてしまった。 それが、嘘に騙されての安堵なのか、それとも「好きだよ」でなく、「嫌いじゃない」という言い方…気遣いに対してだったのか、私にはよくわからない。 |