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瞳を閉じればあなたが




瞼の裏にいることで


どれ程強くなれたでしょう




あなたにとって私も

そうでありたい
















3/9 with Quartet



















戦場に舞い散る雪ほど淋しいものは無いと。


ソルジャーになって一年目の冬、思った。









太陽が平等に全てを照らしだすなら、
舞い降りる雪だって、この世の全てに等しく。


包み込んで真っ白に、


緑も黒も、紅も。


漂白。






嵐が根こそぎ何もかもを奪って去った様な荒みきったこの精神も、リセットしてくれ
るんだろう。














「それでいいのか」




ふいに足元で転がる肉塊が、オレに問い掛けた気がした。




(勝った者が正しく、負けた者が悪になる。お前はそれでいいのか)














地面に突き刺した儘のバスターソードに映り込むのは何の色も映さない自分の瞳と、
全身にこびり付き染み込んだ紅。








「……いいワケ、ないよな」



正しいとか悪いとか、多分そんなものはもう有耶無耶で。
言うなれば兵士という存在自体が悪。





じゃあ、オレって何。





なんて、自嘲してしまうんだけどさ。
でもな。







「生き抜いた奴が、勝ちなんだよ」





最後まで大地に足をつけていた奴が。

























がた ん
















舗装もされていない荒れ地を走るトラックの荷台で。
踞り尻が痛いだのなんだの。
周りの連中の声は雑言。


ノイズが響く。














(あの人、目が見えないんだよ)











ふと覗いた車外。
荒野に降る雪と見上げた先の白い空。

何故か突然、アイツの言葉思い出した。













「あの人、目が見えないんだよ」



ブラウン管の向こうで、サクソフォンを鳴らす初老の黒人男を指差してアイツは言っ
た。









「なんとかチャールズだっけ、生まれた時から盲目だって」







黒い肌に白髪がよく映えた。
背後でジャズピアニストが彼とセッションしているらしかった。


黄金に光るサクソフォンを吹き鳴らして、でたらめに聴こえるメロディが強い意志を
聴衆に向ける。









強い、明るい。









オレはもう、彼の演奏から目が離せなくなっていた。

オレの耳だって、そこにあたかも全神経注いでるみたいに。
融け合うサクソフォンとピアノの旋律だけを拾ってた。









あぁ、底抜けに明るい。





「産まれた時から見えないからさ、人一倍の苦労はしてきたんだろうけど。なんて言
うか…」

「人生、楽しみまくってる顔だよな」





アイツの言葉、拾い上げて呟いた。

話しながらも、オレの意識はブラウン管の向こう側。
全身、鳥肌が立っていた。








「なんとかチャールズさん、アンタに似てるね」









アンタは世界の汚い部分を嫌というほど見てる筈なのに、其処に隠れた綺麗なものを
見つけだせる瞳を持っている。



そして人一倍明るい光を放つんだ。

















が たん










「嗚呼、そうだな」





トラックの荷台で揺られて。

周りは相変わらず雑言に塗れていた。







そして。





オレは静かに笑って瞼を閉じた。










瞼を閉じればお前が、


いつもそうやって笑ってるから。
オレは何処までだって強くなれる。
自分の儘。真直ぐ。
























任務遂行、無事帰還したのが丁度昼前。
遠征でくたびれた身体を引きずって散々に去って行く同胞達に混じって。

どことなく皆背が曲がっているのは徒労の証。



見上げた空は、だからオレ達には青すぎた。







視線を変えればボロイ兵士寮が視界に入ってきて、途端漸く帰ってきたんだと実感。










真下から見上げた右から2番目、三階のベランダ。



嗚呼、眩しいくらいの金色。

一心に洗濯物干すその姿すら芸術的なまでの美しさ。
手摺りを見れば、あの色はオレのベッドのシーツだなんて、気付いてしまったり。




やっぱり

お前のそういうトコ好きだ。


嫌いになる要素なんて一つも無い。



全部、好きだ。
















「クラウド!」




首が痛くなるくらいに真上のベランダを見上げた儘に、どうしようもなく弾む感情が
フライング。


いつも注意されがちなオレ自慢のでっかい声、さらに張り上げて、呼び掛けた。




手を止めて一瞬戸惑って。
漸くオレを見つけた瞬間。



オレを見つけてお前は綺麗に微笑んだ。

いつもなら只管うざったそうに投げ遣りな視線を向けるだけのお前がさ、
戦場から帰ってきた時だけは、笑ってくれるんだよ。

オレの心、見透かしてんのかな。
何よりもお前の笑顔、みたいがために、





オレはここに帰ってきたんだから。















「月、きれい」




ベランダから微笑んだ儘、お前は空を指差して。

オレはつられてその先を見上げた。








「ああ、白いな」












昼前に浮かぶ白い月が、


何だか綺麗で見惚れてしまった。








青い空に浮かぶのは漂白された白い月。








「ちっさいよなぁ」









「うん、ちっさい」













オレらの存在、悩みも心の靄も。


生きていくのも死んでいくのも、



目が見えるのも見えないのも。











上手くいかない事もあるけれど、天を仰げばそれさえ小さくて。










「おかえり、ザックス」








END




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