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貴方に気づいてほしいから


私は歌う




この歌を


















あなた



















戦に赴く直前。
男は、一様に性欲が増すのだといつか何処かの仕様も無い男が言っていた。
それは生物の本能として至極全うな欲求だとも。

身体が無意識に死の予感を察知し、己の遺伝子を遺すべく性行為に及ぶ。






成程、ならば軍人と呼ばれる我々はその日常から既に常人よりも性欲の昂ぶった状態
にあるのだろう。


いつこの身果てるとも解らぬ日常。














「明日から、遠征なんです」


と言っても名ばかりな、野営の実技訓練なんですけど。









ソファでくつろいでいると、膝の上のクラウドがふいに口にした。

確かに明日から一週間、魔物の掃討に駆り出されるのだと聞いていた。








「……不安か?」






背後から髪を撫でてやりながら、耳元で囁くと子供は肩をひくりと震わせた。



別段、心配事は無い。
初めての遠征とは言えクラウドの腕は確かであったし軍に身を置いていれば、これか
ら何度も同じ様な目には合うのだ。
過保護なまでに其の度気を揉む訳にもいかないだろう。







「…不安、です」





意外な台詞だった。


非常に気位の高いこの少年は、恋人である俺にさえも己の弱さを見せようとはしな
い。

それが今、表情は窺い知れないまでも少しの戸惑いを纏い言葉を紡ぐ。


其の背はいつも以上に小さく見え、
思わず自分の胸にもたれかけさせる様にして背後から強く抱き締めた。





「何が不安なんだ?」



抱き締めた儘の姿勢で目の前の首筋に鼻面をあてながら問い掛けると「くすぐった
い」と笑いながらクラウドは身を捩った。

腕から抜け出し、こちらを向いて。



空の蒼が俺の姿を映し出した。












「一週間も……あなたと離れる事が凄く、不安です」



真直ぐに見上げる蒼には一片の曇りも無い。
それに僅かながら意識を奪われた刹那、今度は思いもよらぬ洗礼を受けた。






「………っ」









クラウドからの、深い口づけ。










俺の膝に乗りかかる様にして、僅かに身を乗り出し唇を重ねる。
おずおずと躊躇いがちに自ら腕を伸ばしたクラウドは其の儘抱き込む様に俺の首筋と
頭とを包み込んだ。



人前では必要以上に触れ合おうともせず。
二人だけの時間においても、素面では頬に与えるキスにさえ狼狽える程の初な少年。







普段のクラウドの挙動を思い返し、薄く笑みが零れた。
本当に、この子供は俺の予想を裏切ってばかりだ。

無論、良い意味で。






「………っン、ぅ…ッ」




戸惑ったのは初めの一瞬だけだった。
直ぐに主導権は何時もの通りに自分が握り、重なる口づけをより濃厚に。
全てを貪る様に繰り返した。


びくりと強張った舌を逃がすまいと絡め捕り、角度を変えては口づけをまた深く、息
吐く暇をも与えぬ程に。


首に回された腕を解いてやり、其の両の手首を己の両手でもって緩く拘束。

少年の、未だ声変わりしきれない甘く濡れた声音が耳に心地よく響く。








暫しの甘い痺れを堪能し、段々とクラウドの反応が弱くなってきた事に気づき、ゆっ
くりと唇を離した。









「……っア!…は、……ふぅ…」


「すまない、あまりに愛らしくて加減が利かなかった」




嚥下でききれずに口端を伝う唾液が酷く煽情的。
殆ど酸欠状態で、荒く呼吸を繰り返す少年の瞳は既に情欲に濡れていた。


アルコールが入っている訳でも無いだろう。
此処まで性の欲求に積極的なクラウドは見た事がなかった。






「どうした?今日はやけに積極的なんだな…」


己の胸の中へ抱き締めながら。
傷一つ無い清らかな其の白い肌を隠す邪魔な衣に手をかけ問い掛けた。
片手で胸元の釦を外し、もう一方で肌理細やかな肌の感触を楽しもうとした時。


クラウドは俺の右手を取り、俯きながら蚊の鳴く程の声音で呟いた。










「………一週間、逢えない分だけ。……あなたの全てを、この身に刻んでおきたく
て」










あどけなさの残る少年の口から囁かれたとは思えない淫猥な台詞は、雄の情欲を掻き
立てるには充分過ぎた。

そして更にクラウドは戸惑いながら、俺の右手を小さな口元へ誘い。
その指先を、控えめに舐め上げた。

初めは猫を思わせる動きで舌先のみを使い、擽る様に舐め回し。次いで今度は其の熱
い口腔に指先を迎え入れた。
俺自身を啣え込み、扱き絡めとり、強く吸う。



いつもの情事を想起させる行為。








一心に俺の指先を舐めるクラウドが、ちらりと上目でこちらの様子を窺った瞬間に、
理性は呆気なく消え失せた。


捕われた指先を口腔から引き抜き、再び細い両の手首を今度は片手で拘束してやり華
奢な身体をソファに組み敷いた。








「いけない子だ……大人をからかって、」



喉奥で笑いながら、今将に犯さんとする勢いで組み敷いた少年を見下ろした。

しかしいつもの禁欲的で潔癖な少年からは想像もつかない、淫慾に塗れた妖艶な笑み
を返され、思わず身体の奥が疼いた。










「セフィ……欲しい」
















「嗚呼、幾らでもくれてやる」


そっちが誘ったんだから、加減は出来ないな。

続けて言ってやるとクラウドは困った様に眉をひそめ、頷いた。






「おれの全てをあなたで一杯にして下さい」











恍惚として囁かれた甘い声は引き金となり、後は理性を飛ばし激しく求めるだけ。


繋がった身体、
情事の最中に何度も「好きだ」と囁かれ、

何度も「愛している」と囁いた。

















戦に赴く直前。
男は、一様に性欲が増すのだといつか何処かの仕様も無い男が言っていた。






上等な説だ。

本能に殉ずる少年の、素直な言の葉を聞けるのならば。
互いに幾度も戦に立ち、そして幾らでも帰ってこよう。



この場所に。






END




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