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ぬくもり


初雪が降った。
風は冷たくて、吐息は白くて、ぬくもりが恋しくなった。
そして、ちょっぴり切なくなる季節。
だから、今のこの現状も、今からする事も決しておかしくはないだろうと、クラウド
は思い込んでいた。

涙に濡れた目をこすって、ベッドから毛布を引きずって、寝室を出た。





帰宅したセフィロスは、ソファーに置かれた白い物体に眉をひそめた。
もぞもぞと動くそれを、真正面から見ようと近づくと、見慣れた顔がそこにある。
「おかえり」
「………」
何を言おうか迷い、ようやく出てきたのはため息。



白い毛布を、頭からすっぽりとかぶったクラウドは、顔面のみを外にさらしてソ
ファーでくつろいでいた。
セフィロスの姿を確認すると、頭からはすぽっと毛布を取りのぞいたものの、依然と
して首から下は白で覆われている。

「なんだそれは」
「寒い」
「…暖房は」
テーブルに放り出してあるリモコンを見れば、設定温度がかなり低い。
自分はいくら寒くても平気だが、クラウドは違う。温度を上げようとした指は、冷え
たてのひらによって阻まれる。
「だめだ、そのまま」
「風邪でもひくつもりか?」
「まさか。ほら、リモコンは置けって」


意味がわからないが、ここは従っておくべきなんだろうと思う。
セフィロスはクラウドに弱い。
ここで、どうして手から二の腕にかけて、白い肌をむき出しにしているかという事を
疑問に思っていても。

そのまま風呂に向かおうとした彼の腕に、冷たいてのひらが添えられる。
「セフィロス」
「なんだ、一緒に入りたいのか?」
「違う。こっちに座れ」
クラウドは顎で隣を示す。それに従った直後、クラウドが立ち上がったので、毛布が
ずるりと床に落ちた。

彼は裸だった。



セフィロスの服に手をかけて、上半身をむき出しにする作業。
淡々としていて、下を脱がせる気はないようなので、セックスのお誘いではないよう
だ。
「よし」
短く呟き、膝のうえに乗り、首に手を回して抱きつく、密着した体と体。
肌が直接触れ合って、じんわりと熱を生む。それを逃したくなくて、片手でクラウド
を抱え、もう片手は毛布を拾い上げ、被せてやる。
それがずり落ちないようにしていると、クラウドの腕に力がこもり、キスをされる。



触れるだけの、短いキス。
角度を変え、何度も何度もキスをされる。あまり積極的でない子供が。
情欲を感じさせないそれに、試しに腰を撫で、舌を入れようとすると、案の定顔を離
され睨み付けられる。
「だめ」
間近で見つめ合うと、クラウドの目が少し赤いことに気がついた。



「泣いていたのか?」
「…ちょっとな」
まぶたと鼻も赤みがかかっている。それを見られるのが恥ずかしいのか、クラウドは
再び抱きついて、肩に顎をのせた。
後頭部を撫でてやると、ふてくされたような声が聞こえた。


「俺だって、切なくなるときがある」
「むくれるな」
「悪かったな。これも冬のせいだ」


人は季節によって気分も変わる、そうセフィロスは聞いているが、そういうモノには
疎い彼には、クラウドの感情は理解できない。
「寒いから切なくなったのか?」
「あんたには分かんないよ」
今度はセフィロスが「悪かった」と言う番だった。





「雪、降ってるだろ」
「そうだな」
髪を撫でて、子供の体温を感じながら、穏やかな時間がすぎていく。

「あんたが帰ってくるまで窓から雪を見てたんだ。そしたら切なくなってくるし、頭
は勝手に色々な事を考えるし、悲しくなってきたから」
背中に回った手が、弱々しく爪を立てる。
「暇つぶしに、適当に持ってきた映画のDVDを見た。そしたら、泣いた」


その映画のタイトルを聞くと、セフィロスの耳にも何度か入ってきた事のあるもの
だった。
地位のある軍人と、新人看護生との身分差の恋をテーマにしたヒット作。
「俺たちみたいだろ」
そう言われても、セフィロスはなんとも返しようがない。


「恋愛映画は苦手だけど、看護生役の女優に共感しちゃって、ただでさえ落ちこんで
るのに涙出てきて、なのに続き気になるから見るだろ?で、どんどん泣けてきて…泣
いた」
「それで、どうして裸になったんだ。涙で服を濡らしたのか」
「そこまでひどくない」


クラウドは少し笑って、再び軽いキスをする。
「で、切ないし泣いてるし、唐突にあんたの温もりが欲しくなったんだ。しかもうん
と欲しい。めちゃくちゃに欲しい。温もりに貪欲になった」
「それで?」
「で、部屋を冷やして裸になれば、あんたの温もりを凄く感じられると思った。空腹
の時のごはんだって、いつもよりうまいだろ?」

額同士をくっつけて、まだ赤さののこる目を覗き込んだ。
それは名案だな、と誉めるべきか、オレと食べ物を一緒にするのかと呆れるべきか。

セフィロスの迷いを感じ取ったのか、クラウドは笑顔を消した。

「こういう時くらい、そうだなって言え」
「……そうだな」
「遅い!」
今度は強めに爪を立てられた。

セフィロスは苦笑し、クラウドを抱えたまま立ち上がる。いわゆる『お姫様抱っこ』
の形になり、これを嫌うクラウドの文句のひとつは覚悟していたが、今日は大人しく
されるがまま。

「セフィロス」
猫のように擦り寄ってくる、愛しい子供。
「風呂に入るか」
額にキスをして、囁けば、素直に頷いてくれる。




「…映画の内容が、」
クラウドの声は、バスルームに反響して、いつもよりよく聞こえた。
「その看護生が、恋人と結ばれて、どんな困難にも負けない、この人がいれば乗り越
えていけるって決意するんだけど」
セフィロスは黙って話を聞いていた。
クラウドを後ろから抱きしめながら。


「やっぱり、いざ周りの冷たさとかいじめとか、白い目とか、そういうものに直面す
ると、大丈夫だって決意したはずなのに、怖くて不安になっちゃうんだ」
「で、最後まで見たのか」
「見てない」

セフィロスの肩に、水分を含んで多少おとなしくなった頭が乗せられる。


「どうなっちゃうのか、気にはなるんだけど、怖い」



クラウドが何を言いたいのか、何を怯えているのか、セフィロスには感じ取ることが
出来る。


クラウドは、滅多に弱音を吐かない。
自分とこういった関係にあることが、神羅中の噂になっている事を、ザックスから聞
いた。
それだけで、子供がどのような状況に置かれているのかが想像できる。
その小さな体に、どれだけの好奇の、軽蔑の、妬みの視線が突き刺さってきたのだろ
う。



そして、この子は、結末を恐れている。
自分との関係が、この先どうなってしまうのか、どう変わっていくのか。

…終わりが、来るのか。




「おまえは、不安なのか」
抱きしめる腕に、クラウドの手が添えられる。
「…たまには。真っ暗な迷路に入り込んで、出口が見えない気分」
「そうか」
「不思議だよな。ちゃんとあんたが好きだって、離れられないってわかってるのに」




不埒な動きを始めたセフィロスの手を、クラウドは素早く掴んで止める。
「おい、人が落ち込んでるときに」
「したくないのか?」


セフィロスを見上げた顔には、複雑な表情を張りつけたものだった。

「……ベットがいい」








欲情はしているが、どこか穏やかな気分でもあった。
妙だが、悪くない。と、セフィロスは思う。


ベットに仰向けにした少年を、丁寧に丁寧に味わっていく。
胸に唇をおとし、執拗に舐めて吸えば、クラウドからは快楽の声が上がる。
「あんた…どうしたんだ…?」
「たまにはこういうのも悪くはないだろう」
「そうかも…なぁ、キス」
目を閉じ、クラウドの手が髪をなぞる。お返しに頬を撫で、包み込むように触れて、
キスを送る。
ちゅ、とかすかに音を立て、唇を吸い、やがて舌を絡め合うものへとなっていく。

両手を広げ、ゆっくりと胸から下へ、ふとももまでを辿る。
クラウドの腰が少し浮き上がり、ほぼ同時に膝裏を掴んで左右にひろげる。
濡れて勃ち上がる少年の性器。先端に軽く口付け、感触を確かめるように舌を這わせ
た。
性急に高ぶらせるのではなく、じわじわと性感を刺激していくように。


「セフィロス…、俺は、しなくて、いい…のか?」
ひとまず口を離して、目線を上にやれば、眉根を寄せて、快楽に耐えているようなク
ラウド。
「今日は何もしなくていい。そのかわり」
その表情をいつまでも見ていたいと思いつつも、更に快感を与えてやりたいとも思
う。
セフィロスはとりあえず、後者を取った。
「今夜は、おまえの乱れる姿が見たい」
妖艶なクラウドの観賞は、後でじっくりとする事にして、今は口淫を再開する。





ひとつに繋がった時も、しばらくは動こうとはしなかった。
背中に回された手に応えるように、子供の体を抱き締める。
「…あったかい」
声は少し擦れていて、それでも内容ははっきりと聞こえた。
「あったかいな、セフィロス」
冷えきっていた肌は、風呂のおかげかセックスの効果なのか、セフィロスのてのひら
に暖かさを伝える。


「…ひとりなら寒いけど、ふたりなら暖かいよな」
「ああ」
「ふたり、だからかな…」
はぁ、と息を吐いて、クラウドがキスをねだる。
前髪をかき上げて、唇を重ねようとして、セフィロスは思いとどまる。
「クラウド」
いつまでたってもやってこない口付けに、クラウドが閉じていた目を開ける。

ふたりの視線が交わったときに、セフィロスは静かに告げた。


「愛している」


そして、深く深く口付けた。








クラウドを揺さぶりながら、時折キスをして、お互いの肌を撫でまわす。
ぬくもりを感じ取るように。
「確かに、あたたかいな」もう何度目になるのだろう。口付けをかわしながら告げた
セフィロスに、クラウドは唇の端をもち上げ、言った。
「ふたりだから」



肌同士のぶつかる音、お互いの吐息、繋がる部分の濡れた音。
会話は途絶え、キスをして、絶頂に到達した時、ふたりはしっかりと抱き合った。
体の境界線がなくなってしまうように。
きつく、抱き合った。









「いいこと思いついた」
仰向けになったセフィロスの胸に、長いこと頬を押しつけたままだったクラウドが、
突然こんなことを言い出した。
体をまた冷やさないように、リビングに置きっぱなしだった毛布もちゃんと戻して。


「これから先が不安になったら、こうやってあんたとくっつけば大丈夫だ」
「それはいい方法だな」
「だろ?俺、どうせまた落ち込むからさ。冬だし。そのときは、」

落ち込む宣言に苦笑していると、胸から顔を上げたクラウドと目が合う。
非常に晴れ晴れとした、天気とは正反対の、笑顔だ。

「キスしてセックスして、あんたが好きなんだって再確認すればいい」
「となると、オレにとっておまえが落ち込むのは、歓迎すべき事柄なるな」
「バカ」


クラウドはにっこり笑いながら、セフィロスは穏やかに笑いながら、ゆっくりと顔を
近付けていく。








明日、さっきの映画を一緒に見よう。と、クラウドが持ちかける。




「あんたと一緒なら。最後がどんな結末でも受けとめられる、そんな気がする」




クラウドの言葉は、映画に向けられたものか、自分たちに向けられたものなのか。
聞いてみようにも、子供はすでに寝かかっていたので、それはやめた。代わりに背中
を撫でてやる。
「愛している」
「……俺もだよ」
目を閉じたまま返された言葉に、セフィロスは穏やかにほほえんだ。




結末がどうなるかなんて、わからない。
でも、ふたりなら、きっと乗り越えていけるから。

寝息をたてる少年の手を取って、握りしめる。




このぬくもりは、決して手放しはしない。そう心に誓って。




END



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