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ばかっぷるとチョコボ


「ちょっと待って」
クラウドが走らせるフェンリルの足を止めた。隣でデイトナを走らせていたセフィロスもそれに従う。何故、とは思うものの急ぐ旅でもない。その場にフェンリルを止めて駈けていく先にあるものを見て苦笑した。
日の光にきらきらと輝く毛並み。それもこちらに気付いたらしく、嬉しそうに駈けてきた。同類とでも思ったのか。最近では、遭遇することもまれになってしまったチョコボだった。
「昔から、あれだけには勝てなかったな」
つい昔を懐かしむ。セフィロスの記憶に残るほど、クラウドのチョコボへの愛着は凄かった。
始めて連れていったチョコボファーム、その時のクラウドの目の輝きをセフィロスは忘れない。どうもそれは、成長した今も変わらないようだ。セフィロスでさえ気付けなかったチョコボの気配を、あれほど遠くから気付けたのだから。
そういえば、以前ザックスが言っていた。

『クラウドの髪、あれはアンテナなんだぜ』

冗談だったのだろうが、今はそう思えない。走る度に風に揺れるそれを見ていて、つい肩を揺らしてしまった。…やはり、何か感じ取ったのか。
「何、笑ってるんだ」
じと、とこちらを睨むクラウドに何でもないと答えたが、納得はしてくれなかったようだ。走っていた足をわざわざ止めて、背中に手を伸ばされた。慌ててチョコボを指差した。
「ほら、突進してくるぞ?」
「あっ」
言われて思い出したのか、再び猪突猛進の勢いで駈けていった。助かったのだがセフィロスの心中は複雑だ。
駆け寄り互いに頭をこすりあう様は微笑ましい。だが。
「クラウド」
「何だ」
名を呼んでも振り返りすらしない。すっかりチョコボに夢中な恋人に仕方ないかとため息をまた一つ。飽きるまで待つかと、セフィロスが視線をあげるとふと、クラウドが抱きついているチョコボと目があった。

にやり。

「ほら、こいつあんたを見ても逃げないから。あんたも…っておい!」
「クラウド、離れていろ。こいつは俺に喧嘩を売ったんだ。覚悟は出来ているのだろう?」
セフィロスの手には、何時の間に呼んだのか愛刀が煌めいている。クラウドはチョコボを庇うように立ちはだかった。
「あんた何考えてんだ!?相手はチョコボだぞっ」
「だがな、クラウド」
何とかクラウドを退かせようとしたセフィロスは見てしまった。

クラウドの背後で、勝ち誇った笑みを浮かべるチョコボを。

「全く、大丈夫か?」
チョコボが怯えてるだろ、と宥めるためにセフィロスに背を向けたクラウドに、チョコボは甘えるように胸元にすりすりと頬を寄せた。クラウドにしてみれば、動物の愛情表現。だが…。
ぶちん、とクラウドは何かが切れる音をきいた気がした。気付きたくはない。だが、振り返らなければいけない気もする。
恐る恐る振り返ったクラウドの背後には、…背に羽を生やして何かをよばんと天に右手を掲げるセフィロスがいた。
「な、何してんだ。あんたは!」
「ククク、そんな生物。私の敵ではない」
ああ、目が完全にいってしまっている。
「ちっ」
クラウドは舌打ちすると素早く背のホルダーに下げてある剣に手を掛けた。
「いい加減に…っ」
「!?」
セフィロスが反応するより早く動く体。この馬鹿には、手加減なんて必要ない。心を鬼に、そう思いながら顔が緩むのは何故なのか。
「しろ!」
クラウドは、何のためらいもなくリミット技のフルコンプといつぞや、廃墟と化した神羅ビルで食らわせた技をたたき込んだ。

セフィロスがこれまで見た中で、最高の笑顔を浮かべながら。

はっと我に返ったクラウドは、目の前にぼろぼろになった恋人は放っておいて振り向いた。そして、哀しげに眉を寄せて肩を落とした。
「チョコボが…」
「クラウド、言うことは他にないか?」
ジェノバ細胞をフルに使い、再生したセフィロスが立ち上がりクラウドの背に呼び掛けた。だが、クラウドはこちらを向いてはくれない。いつまでも、チョコボが去ってしまった平原を見つめている。
「あんたのせいだ…」
「おまえが」
鬼神の如く剣を振るって、この一帯の地形を変えたせいでは。とは言えずにセフィロスはたじろいだ。
こちらを振り返るクラウドの手には、剣が握られたまま。
「ま、待てクラウドっ」
「黙れっ!」
毎日隣にいる恋人より、めったに会えないチョコボに軍配。



この後、この一帯の地形が更に変わったことは言うまでもない。合掌。


おわっとけ

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