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An ending


もう取り戻せない暖かく優しかった日々を思い出し夢に見ては、未だに涙が流れた。焦がれる気持ちを捨てられないままその名前を自分が口にすることすら罪悪感に駆られた。狂気にとらわれた彼ではなく、かつて自分だけに見せた穏やかな笑顔が脳裏に浮かぶたび胸が締め付けられるようだった。
どうしてセフィロスの苦しみを理解してあげられなかったのか。何故故郷を焼かれたあの時、その手を取らなかったのか。もしあの瞬間にすべてを捨てられていたらセフィロスを手にかけることなんてなかったはずだ。
そうやって懺悔する相手が失われた後悔をずっと抱えて生きていくのだと思っていたのに。

「……どうして」
三度もこの手で殺したはずなのに。どうしてまた、自分の前に現れたのか。
さらりと揺れる銀髪から覗く表情は昔のまま。今度こそ期待なんてしないと決めていたのに。
嘘だ、そう思っても自分にはわかってしまった。目の前に立つのはジェノバの擬態でも思念体でもない。そうなったら気持ちを押さえることなんかできなくて、望むまま与えられる温度があまりにも懐かしくて泣きそうになる。すがりついてごめんなさいと繰り返す自分を抱くしっかりとした腕の力は間違えようもない。
だからこれからはずっと傍にいる、もう離れないと言ったこの人の言葉を信じてしまった。

戻ってきた、今度こそ。





薄いカーテンから差し込む光に重い瞼を僅かに押し上げる。
「クラウド」
「……ん…」
まだ夢現のまま目の前の広い胸に擦り寄ると、優しく名前を呼ばれて腰に回された腕でより近くに引き寄せられる。
再開してからそれなりに日にちが経っているにもかかわらず、いまだに目が覚めると不安になった。
密着する肌の暖かさがこれは夢でも幻でもないと教えてくれる。
ちゃんと、ここにいる。

時間が流れたとはいえ、世界が災厄としてのその存在を忘れるには全然足りなかった。セフィロスを憎悪や畏怖の目で見られるのが嫌で人里から離れて暮らしていたがそれでも良かった。
周囲の猛烈な反対を押し切り仇とも呼べる存在と共に生きることを選んだ自分をなんて愚かなのだろうと思いはしても、再び離れることなんて想像もできない。誰にも埋められなかったぽっかりと空いた心の隙間が、この人を失ってまで何のために星を救ったのかと思える程に満たされているのを感じる。



結局最後にたどり着いたのはここだった。
欲しかったのはこのぬくもりで自分が求めたのはこの人だけ。
誰の泣き顔を見ても、もう手放せなかった。

もう離れなくていいのだと思うと、すべてが終焉を迎えても構わないくらいに幸せなのだから。





END


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