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BOY BE AMBITIOUS


「俺、ソルジャーになるんだ」
まっすぐな眼差しでそう決意を語った少年。
お世辞にも兵士に向いているとは言えない小柄で線の細い身体。少女めいて整った面立ちに透けるように白い肌。一見すれば一般兵の訓練にすらついていけるのか心配になりそうな容姿をしているが、まだ幼いとさえいえる青い瞳に宿った強い意志は本物だった。



「よぉクラウド!」
「あ、ザックス」
クラウドと呼ばれた明るい金髪の少年兵が振り返る。親しげに声を掛けたのは、クラスこそ2ndだが戦闘においては英雄セフィロスに次ぐと言われる、若い黒髪のソルジャーだった。
「どうだった今日の実技試験」
「ザックスに相手して貰ってるお陰で同期の中だとかなり良いって教官に誉められた」
「やったなー!」
出会った頃は刺々しい態度と雰囲気で他人を拒絶していたが、慣れてくれば少々気が強い年相応の少年の顔を見せてくれるようになった。
嬉しそうに話す少年に、ザックスがせがまれて稽古をつけてやるようになってからはまだほんの二、三ヵ月。だが、この少年ときたら土に水が染み込むように教えたことを吸収していくのだ。そのひたむきさを気に入ってしまい、ザックスはどうにも構ってやりたくなるのだった。
「まあ、毎回土塗れにされてるけどね」
「わりぃわりぃ、なかなか手加減がよ〜」
他の者はともかくクラウドならば、追い付きたい、共に戦えるようになりたいと言われても不快ではない。笑い合いながら廊下を歩き、いつもの溜り場へと向かう。
一般兵はほとんど立ち入ることがない区画へ進んでいく。誰もが入る前には一瞬躊躇するであろう人物の執務室へ、二人は何の遠慮もなく足を踏み入れた。
中で待っていたのは流れる銀髪のソルジャー。近寄り難い程の威圧感と秀麗さを兼ね備えた神羅の英雄。ただの兵士が気軽に口を効ける存在ではないはずだが、クラウドは軽い足取りで駆け寄っていく。
「セフィロス」
「どうだった、試験は」
先程のザックスと同じ問いをする英雄の眼差しは優しく、彼が他人に対して向けるそれとは相反するものだ。そこには単なる好意以上の感情が感じられた。
「ザックスにたくさん自主練付き合って貰ったからね、誉められたよ」
セフィロスが自慢気にいう少年の頭を大きな手のひらで撫でる。
「そうか。確か次は魔法の試験だったな?ザックスに教えられるのは頭を使わなくても良いものばかりだ。今度はオレが教えてやろう」
「…本当?」
少年の顔がぱぁっと明るくなる。英雄直々に教授するなど、ソルジャーでさえ滅多にないことだ。
「お前は覚えが良いからな、そこの猿よりよっぽど教えがいがある」
「おいオッサン、サルとかいうな!」
「…おっさんだと?それは申し訳なかったな原始人」
「あんま変わんね…って全然申し訳なくねーじゃねーかなんで正宗出すん…おわっ!」
投げ付けられた正宗がザックスの首の皮一枚を切って、鈍い音と共に壁に突き刺さる。
「…わ、笑えねえぜおにーさん」
「そうか?オレは楽しいがな」
そのやりとりを見ていたクラウドが溜め息を吐く。
「仲良いのはわかるけどいい加減にしろよ二人とも」
その言葉を聞いたソルジャー二人が顔を見合わせる。
「俺らって…」
「仲が良い、のか…?」
「……きしょっ」
「…ほぉう?」
「嘘ですすんませんすんません」
また始まったかとすでにクラウドは呆れ顔になっている。
「まあいい、これ以上邪魔をしないでもらおうか」
「わぁったよ!じゃあなクラウド」
「ん、またねザックス」
黒髪のソルジャーを見送って、クラウドはセフィロスに向き直る。
「あんまりムキになっちゃ駄目だよ」
そう言いながらもクラウドの目は笑っている。セフィロスと訓練して貰える約束をして機嫌が良いのだろう。正宗を収めたセフィロスもクラウドの方を向いて手を延ばし、発展途上の華奢な身体を抱き締める。
「…仕事中だよ?」
「構わん。たまには良いだろう」
悪戯っぽく上目使いで見上げてくるクラウドを、これまでよりももっと穏やかな、愛しい者を見る目で見つめるセフィロス。その背中にもすでにクラウドの腕が回されている。
「焦るなよ。オレはずっと待っていてやる」
「大丈夫、焦ったりしない。でも俺の目標は大きいからね。頑張らないと」
ああ、と返事をする男は、この少年の前では英雄ではない。
ただの、セフィロス。
少年も、英雄になりたくてソルジャーを目指す訳ではない。憧れたのは強さ。大切なものを守れるだけの。
故郷の約束以上に、彼と並んで戦えるようになりたい、守られるだけでなく守りたいという思いが少年を動かす。

追う背中は、遥か遠く。

それでも、愛するものを守りたいという気持ちは同じだから。

その志のもと、夢に向かう少年がいる。





END


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