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える、幻


これは嘘、こんなの夢だ。
そう思いたいけれど今自分の身に起こっているのは紛れもなく現実で。
「…ぁっ、く…ぅ」
身体の痛みといろんな感情がぐちゃぐちゃに混ざり合って、涙腺が壊れたみたいに涙が止まらない。呼吸もうまくできなくて、滲んだ視界の先には見たことがないくらい冷たいセフィロスの瞳。
大好きなはずの、綺麗な翡翠色の瞳。
「は…っぁ…ん、く…ッ」強い力で加減なく押さえ付けられているせいで痺れてもう感覚がない手首。何の潤いもなく突き入れられた後ろはきっと血塗れになっているのだろう。セフィロスが動く度に内側から引き裂かれるような、内臓を抉りとられるような痛みに襲われる。
痛い、嫌だ、怖い。
何度も喉から出かかる言葉を、唇を噛んで必死に抑える。こんな状態のセフィロスを拒みたくなんてなかったから。


ニブル山の魔晄炉に行ってからのセフィロスは、独りで悩んでいるように見えた。言葉少なになり塞ぎ込んで神羅屋敷の地下に閉じこもり、分厚い本や研究書に没頭し時々頭を抱えて苦悩していた。
呼び掛けても上の空。まともな返事は返ってこず、一人にしてくれと言われれば出ていくしかなかった。だから、こんな形でも求められたのは嬉しかった。少なくともそのあいだだけはセフィロスは自分を見てくれるだろうと思ったし、自分にはわからない辛さを僅かでも紛らわせてあげられると思ったから。
だから、苦しくても辛くても我慢した。

セフィロスはいつも優しく抱いてくれた。時間をかけてとろけるくらい気持ち良くしてくれて、何度も愛していると囁いてくれた。意識が飛ぶまで容赦なく鳴かされたけれど目が覚めるまでずっと抱き締めてくれていた。
こんな風に酷くされたことなんて一度もなかったのに。

なんで、どうして。
そんな疑問が後から後から溢れ出して思考が乱される。こんなのは自分の知ってるセフィロスじゃない、お願いだから早くいつものセフィロスに戻って欲しい。すまない、なんて謝って泣きじゃくる俺を宥めていつものように優しく抱き締めて欲しい。
そしたら、三日間口効かないくらいで許すのに。

一定の運動を繰り返して熱を持つはずの身体が段々冷えてきたように感じて、徐々に意識が遠退く。
視界が途切れる直前の一瞬だけ目が合って、その瞬間だけは大好きないつもの彼だった気がした。



やがて意識を取り戻した自分の前に突きつけられた光景。
余りの高熱にじりじりと頬が火照る。真っ赤な炎の中に、蜃気楼のように浮かぶ建物の影。すえたような臭いといくつもの人型の黒い物体。これが幻覚や夢だったらどんなにいいか。
「そ、んな………」
掠れた声でそう呟くので精一杯だった。
まさか、セフィロスが。そんなはずはないと思いたくても、こんなことができるのは一人しかいない。


壊されてしまった、何もかも無くなってしまった。
思い出も、大切な人も、帰る場所も。


愛する彼の手によって。





END


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