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1/365の幸せ










「近藤さん」


俺が局長室の襖をあけると、そこにしんと静まりかえっていた。
部屋は電気が落ちていて薄暗く、しばらく人がいた気配がなかった。

「ここにもいねぇか…」

さっきから探し回っていると言うのに、一向に捕まる気配がない。
まぁ、急ぎの用事でないにしても早めに終わらせておいて損はない。

どこ行ったんだか……

俺はため息をつき、諦めて部屋を出ようと襖に手をかけた。
ふと、視界の端に何かが写る。


「ん‥‥?」


見ると、それは小さな箱だった。


主のいない書類の散らばった乱雑な机の上に、不釣り合いな濃紺の高級な箱。
俺は悪いとも思ったが、どうしてもそれが気になって手に取った。



「指輪・・・?」



箱を開けるとそこにはプラチナのシンプルな指輪、
取り出してみれば内側に小さな緑色の石が付いていた。
飾り気のないそれに緑の石はずいぶん素っ気なかったが、逆にそれが神聖な雰囲気を出している。





「結婚指輪・・・か」





考えなくても分かる、どうせあの雌ゴリラへの貢ぎ物だ
あーあー、ホント馬鹿だあの人は
こんな高そうなもん買って、給料何ヶ月分だこりゃ


俺は今姿形もないゴリラに呆れて、さっさと指輪を箱に戻そうとした。
しかし、その瞬間、俺の頭の中にある場面が浮かんだ。





近藤さんが、あの女に指輪を渡そうとするシーン。





指輪を戻す手がピタリと止まる。





「・・・」







あの女は絶対こんなもん受け取らない




受け取るはずがない




でもあの人がこれを贈ることがどうしても許せない。












「・・・捨てちまおうか」


俺はぼそりと呟くと、自嘲的な笑みを浮かべ指輪を見る。

もちろん本当にそんなことはしない。

そんなことをすれば泣き叫びながら必死に指輪を探す
愛しくてたまらないゴリラを簡単に想像できるからだ。




















でも






俺が本当にこれを捨てても






アンタは結局は許してくれるんだろ?














俺は指輪を強く握りしめた。














「うぃートシー呼んだかー?」




「うおっ!!?」






油断していたところにいきなり背後から声がかけられる、よりにもよってこんな時に近藤さんが戻ってくるなんて。
予期せぬ事態に驚いた俺の心臓は、口から飛び出るんじゃないかってほど跳ね上がった。
ドンドンと、まるでドアを叩いているような心臓の鼓動は、外に音が漏れてしまうんじゃないかと思うほど激しい。



しかも心臓に連動したのか、動揺した俺の指はポロリと指輪を落としてしまった。

ころころと指輪は転がり、あろうことか近藤さんの足元で止まる。


「山崎にトシが探してるって聞いてなー、何かあった・・・ん?」


近藤さんは足元に転がってきた指輪に目を落とした。




「あああああ!!?ちょっとトシ何勝手に開けてんの!?」




近藤さんは俺の手にある空の箱を指差し、ついで足元の指輪を慌てて拾った。

そして今さら隠しても遅いだろうに指輪を自分の後ろに急いで隠し、居心地悪そうに目をそらした。









俺の体を支配していた心臓の音が、違う意味で鳴り始めた。








なんだよ、それ・・・・








勝手に箱をあけた俺が悪い、それは判る。

でも、俺は近藤さんの行動に何故かとんでもなく腹が立った。

訳の分からない感情が渦巻いて、腹の底になにかどす黒いモノが溜まっていく。





心臓の音が、うるさい





手に、汗が滲んできた







「あの女が受け取るわけないだろ。」




ポツリと呟く。



「は?」



近藤さんはやっとこっちを見て、言葉の意味が理解できない、というような顔で俺を見る。

そんな顔に、俺はもっと腹が立った。

まっすぐ近藤さんの目が見れなくて畳のシミを親の敵のように睨みつける。


「指輪だよ指輪。んなもん渡したら口にねじ込まれて殴られるのがオチだ。万が一受け取ってもらえたとしても速攻換金されるぜ?」


堰を切ったように口から悪意が漏れる。
言うつもりなんてなかった言葉が次々と溢れ出てきた。


「馬鹿馬鹿しい。この指輪いくらした?なんであんたはあんな凶暴女にこんな尽くすんだよ」


最後のほうはただの愚痴になっていて


悪態をつけばつくほど頭は冷静になっていくのに



心臓は相変わらず早鐘のように鳴り響いていた。





「理解出来ねぇ」





今にも爆発しそうな心臓を落ちつけようと煙草に手を伸ばす。

情けないくらい震える指が鬱陶しい。

火をつけても、口がカラカラに乾いていて全然うまくない。





イライラする





雌ゴリラに




アンタに




指輪に




俺に




嫌な沈黙のあと、ちらりと盗み見ると近藤さんの口がかすかに動こうとする。
怖くて目を合わせられない、俺はまた視線を落とす。



嫌だな、怒ったかな。
当たり前か、こんだけボロクソ言ったんだもんな。
『トシの馬鹿ーー!!』とか泣き出すかも。
はは…すげぇへこむ。



後悔先に立たず。
俺は間違いなく今月一番へこんでいる。
今さらかとは思ったが、うるさい心臓に押し出されるように謝罪の言葉が漏れた。













「わりぃ・・・言い過ぎ──」

「これ、トシにだぞ」

















‥‥‥?











言葉を上手く理解できなかった。








「‥‥は?」
「だから‥‥トシに」


思わずあげた視線が近藤さんと絡む。
あれだけうるさかった心臓の音がピタリと止まった。
脳みそが鈍い音を立てて回りだす。
耳から入った音がようやくその意味を俺に伝えた。








そして










間違いなく










心臓が爆発した。










「・・・・・・・・なっぁあ!!?」

「明日・・・トシの誕生日じゃん・・・」

「た・・ん」

喉から出てくる声はとぎれとぎれで、嫌に乾いていた。

「あーあ、明日トシの誕生会でババーンっと出すつもりだったのにぃ」

くそー出しっぱなしとくんじゃなかった、とかあんたは呑気に言ってるけど。
あんたの言葉に俺は心筋梗塞で死にそうだ。
もう心臓だけじゃない、全身が脈打ってる。

まてまてまてまて!この指輪は俺に!?

俺はパニクった頭でマジマジと指輪を見る、どう見たって結婚指輪だ。
しかもよく見ると『to T . from I』と彫ってあった。

決定的だ

寸分の違いもなく結婚指輪だ
なんだこりゃ夢か?白昼夢か!?
俺は頬を思いっ切りつねってみたがもちろん痛かった。

じゃぁ・・・本当に・・・?


「いやいやいやいや!!!」


よく考えろ土方!今までこんな都合のいいことがあったか!?いやない!!
断言できた自分にとんでもなく泣きそうになったが今はそれどころじゃない。

「あー・・・近藤さん・・・この指輪どうやって買った・・・?」

「へ?あぁ、それ?」

近藤さんが言うには

誕生日に何を送ったらいいか分からなくて、とりあえず宝石店に行ってみたら
5月の誕生日石はエメラルドだど教えてもらって、そしたら目の前にエメラルドのシンプルな指輪があって
これなら俺に似合いそうだと思い買ったんだそうだ。


まぁ・・・そんなこったろうと思ったけどよ。


俺は片手で目を覆いため息をついた。
なんか目がしめってる気がするがシカトする。
つか店員止めろよ、サイズで男用だって分かるだろ!
俺はアホらしいのか恥ずかしいのか嬉しいのか判らない、やり場のない怒りを店員にぶつけた。
多分、いや絶対俺いま顔まっかだ‥‥


「にしてもトシー、さっきは言い過ぎだぞ!お妙さんは口にねじ込んだりしない、せいぜい目につっこんでジャイアントスイングくらいだ」


悪化してんじゃねぇか‥‥
近藤さんはがっくりきた俺に目もくれず、「たっくもー」とかぶつぶつ言いながら俺に指輪をはめようとしていた。
もう抵抗する気力もない。

「あっれー?入んねぇなぁ・・・」

人差し指に入れようとした指輪は俺には小さくて

「おっ入った!なんだぴったりじゃん!」

指輪が入ったのはあろうことか薬指。

しかもお約束のように左手だった。









エメラルドのインサイドリング







昔、誰かが言ってた様な気がする









エメラルドの宝石言葉は









確か













「ぶふっ!!」

記憶の片隅から引っ張り出した言葉に、たまらず吹き出した。

「えっちょ!?トシどうした!?」
「クックック・・・」
「なに!意味わっかんないんだけど!何で笑ってんだよ!?」




あーもう最高だぜ近藤さん、あんまりにあんたが最高すぎて涙が出てきた。

あんたが選んだそれは結婚指輪で

左手の薬指の指輪は何を意味するかとか

エメラルドの宝石言葉だとか

ホントに色々言ってやりたいし

もし俺がそれを言ったら

あんたは顔を真っ赤にして必死に俺から指輪を取り返そうとして

あーやべ、そんなあんたをむちゃくちゃ見たい俺がいる。


でも


こんなチャンスもう絶対ないから



「なぁ、近藤さん」

「ん?なんだ?おさまったか?」








これは俺の気まぐれ







何の意味もない




「俺が五体満足のときも

どっか吹っ飛んだときも

マヨ喰ってるときも

煙草吸えないときも

金もってるときも

無一文のときも

俺を見て

俺を認めて

俺を許してくれて

俺と真撰組やって

あんたがいる限り、ずっと一緒にいるって約束してくれるか?」


俺の突然の言葉に
あんたはきょとんとして

さっき、あんなに腹ただしかった顔が可愛くて愛しくて

そして

そんなこと考えて

あんたの答えを期待して

でも、答えなんてとっくに分かってる俺が馬鹿っぽくて











あんたは屈託なく笑った












「おう、もちろんだ」













あー




ホント




馬鹿馬鹿しい







「近藤さん」

「ん?」

俺は思いっ切り煙草を吸い込んで、吐き出した。

「指輪出せよ、もう一個あんだろ」

「へ?あ、あぁ」

近藤さんは隊服のポケットをあさり始めた。

俺は平静を装いながら、今度は我が子のように畳のシミを見つめた。

うん、こうしてみるとなかなか愛嬌がある。

「よく分かったな、もう一個あるって。なんかこの指輪はペアで買うもんなんだと」

近藤さんは俺と同じ濃紺の箱を取り出した。
俺はそれを受け取り指輪を手に取る。

俺の薬指に付いてるものと同じエメラルドのインサイドリング

裏に彫ってある文字は

『to I .from T』

その文字に否応なく顔がにやける

でもそんな顔あんたに絶対に見られたくなくて必死で誤魔化す。



俺は近藤さんの左手をとった




「近藤さん」



「おう」




「俺も約束する」




あんたがアホヅラで雌ゴリラ追っかけてるときも

雌ゴリラにボコボコにされたときも

笑ってるときも

いじけて泣いてるときも

総悟に駄菓子おごらされてるときも

ホステスどもに有り金全部絞り取られてるときも

あんたを愛し

あんたを敬い

あんたを慰め

あんたを助け

この命が終わっても、真心を尽くすことを約束する。






誓いを立てる神父も



俺たちを祝福する鐘も



ましてや誓いのキスなんてないけど















愛してるぜ、近藤さん
















言葉になんてしないけど。






fin.






トシが報われる日なんて誕生日以外思いつかない!!
ちなみにエメラルドの宝石言葉は「夫婦愛」「幸運」デス。
ぶっはー土方乙女ー!!別人28号!!
でもこんなマヨラーが大好物です!

今回リクエストで「報われる土方」でした。

しかし管理人は
えっ土方が報われる!?そんなアンビリーバボーなことあるの!?
という思考回路の持ち主なので(土方すまん)
すごく考えるのに時間がかかりました。

仲根 悠さま!こんな辺境サイトにリクエストしていただいて本当にありがとうございました!

‥‥そして、もう気づいていらっしゃるとお思いですが

そう

リクエスト内容は

「土→近で3Z」


3Z


3Z



ほっっんとすいません!!!!(ジャンピング土下座)



もう頭の中は「報われる土方、報われる土方‥‥!」とそのことばかり考えていて
ほぼ九割書き上げたとこで、リクエストに3Zが含まれていることに気がついたのです!!
なので今さら3Zに変えることが出来ず‥‥!!
気づいたとき必死で報われる3Z土方を考えたのですが‥‥無理でした‥‥ホントすいません!!
でもいつか挑戦してみます!いつか!
と言うわけでわざわざリクエストを募集しておいてその期待にすら応えられなかった私ですが
もし、これですこしでも満足していただけたら光栄です‥‥!!

この小説は煮るなり焼くなり好きにしていただいて結構です‥‥!
も、ほんっとすいません!!
こんな馬鹿でくずなあほ人間ですが、これからも遊びに来て下さい!!
リクエストからかなり時間が過ぎてしまい、申しわけありません!!

最後に、リクエストありがとうございました!!




橿原 飛鳥



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