鏡をみれば、いつでもあいつがいる。 だけど、それほど虚しいことはない。 わかってるけどわからない。 双子の弟が女の子をつれてきた。 「はじめまして。お付き合いさせていただいてます――」 瞬間、頭を鈍器で殴られた気がした。 考えたくない。 俺以外に目を向けているあいつなんて。 考えたくない。 今隣の部屋で何が起こっているか、なんて。 考えたくない、のに。 思わず想像してしまう。 荒い息で、汗を溢してるあいつ。 快楽に耐えてるあいつ。 耐えきれず、顔を歪めているあいつ。 『―――』 そこの口からは決して自分の名前は呼ばれないけれど。 考えたら、火照った身体がコントロールきかなくなった。 全身鏡の前に何も纏わず座りこむ。 そうすると、目の前にあいつがいるような感覚に陥ることができた。 思春期のころからしている独り遊び。 はじめの頃こそ罪悪感もあったものの、今では殆ど麻痺してしまっている。 そんなものより、快楽を。 そう、本能が求めるのだ。 俺は片手を鏡につけて身体を支え、視覚だけで少し頭をもたげた自身に指を這わせる。 ひやりとしたガラスの冷たさに一瞬浮かんだ途方もない虚しさを、首をふって掻き消した。 そんなことわかってる。けど、こうでもしないとこの想いの消化の仕方がわからない。 「……はぁっ…ァ」 指を筒状にして少しきつめに自身を扱く。 今鏡に映っているのは、あいつ。 この指はあいつのもの。 そう妄想するのだ。 「兄貴っ…」 そう、あいつが耳元で掠れた声を絞り出している。 顔をあげると、快楽に耐えるために眉を寄せたあいつの顔。 自身からでた先走りを、その唇に乱暴に塗りつけた。 その顔に堪らなくなって増す動悸。 近づく絶頂。 「――――っ」 絶対に呼べない名前を心の中で呼んで、俺は白濁をはきだした。 「………」 冷める熱とともに冷静になる心で、目の前の残骸をみる。 飛び散った白濁、鏡に塗られたそれももう渇いている。 それを濡らしたティッシュで拭いて、消臭剤をまいて部屋をリセットした。 声も音もたてなかったし、隣にいるあいつが気づくことはないだろう。 隣から聞こえる甘えた女の声を聞きたくなくて、後片付けがすむと俺はベッドに身を投げ出した。 「兄貴ー?」 あいつのノックの音で目をあける。 だいぶぐっすり寝ていたのだろう、辺りはすっかり暗くなっていて体もすっきりしていた。 「どしたー?」 恐らく飯時だと呼びにきたのだろう、わかっていながらも尋ねながらドアをひらいた。 「母さんが飯って」 ほらな、やっぱり。 ということは、彼女はもう帰ったのだろう。 「おまえら、ナニしてたんだ―??」 さっきまでしていたことへの罪悪感を隠すように、にやりと笑んで肘でつついてやる。 「兄貴には関係ないだろ!!」 と、ボンと顔を赤くする弟。 わかってたはずなのに、思わず涙が溢れてしまった。 「あ、兄貴!?」 俺の失態に弟が周章てている。 俺のことなんか、放っておけばいいのに。 あぁその優しさが、お前の罪だよ。 あぁその優しさに俺はつけこむんだ。 なんて、最低な兄貴。 [管理] |