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狐の墓参り





 この村のはずれには、ポツリと小さなお堂が寂しくある。其処は『うずまきの堂』と呼ばれ、古くから化け物が住むと云われてきた。



□ □ □




「ネジ兄さま、」

 ヒナタはパタパタと廊下を走りながら、長い黒髪を揺らすネジの後ろ姿を見つけ、呼び止めた。

振り返ったネジは、微かに微笑みを浮かべる。ヒナタは眉を下げ、控え目な声で本気ですか、と呟いた。

「本気であの、『うずまきの堂』へ?」

「あぁ、それが父上との約束だからな」

ネジは意思の強い瞳をヒナタに向けて、すぐに遠くを見つめた。

『父上との約束』

その意味を知るヒナタは、諦めたように顔を伏せた。不安そうに、眉を寄せて小さく「ご武運を」と胸の前で合掌した。小さくネジは頷くと、歩き出す。

(どうか、ネジ兄さまをお守り下さい……)

 ヒナタは尚も、この世で一番の呪術師だったという先祖に祈っていた。




□ □ □




 ネジとヒナタの家は古くから呪術を扱う旧家であった。姓を日向という。日向に生まれた子は物心つく前から呪術を学び、その名に恥じぬように育てられた。日向は村を守護し、統治することを遥か昔から定められていた。

『村の未来を、お前ら二人が守ってゆくのだ』

日向の当主であり、村の長でもあった父は言った。ネジはその言葉を一日だって忘れたことはない。父は亡くなる寸前まで、村を安じていた。

『ネジ、ヒナタ……村を、日向を頼むぞ…』

ネジは何度も頷き、父の手を握った。必ず、と。

『ネ、ジ……うずまきの堂へ』

『おまえは……やさしく強い子だ……おまえなら、……る』

『やく、そくだ……』

そう言って、息を引き取った。
最後の約束を託して。



□ □ □




 『うずまきの堂』は、古く荒んでいた。不穏な空気が、お堂を包んでいる。生ぬるい風が柳を不気味に揺らした。

「ふん、化け物がいそうな雰囲気だな……」

父との約束。父が死ぬ間際に残したそれは恐らく、『うずまきの堂』に住まうという化け物をお前たちの手で必ず退治しろ、ということだろう。ネジとヒナタは、そう解釈した。

『うずまきの堂』に住む化け物は、日向家の初代が命と引き替えに堂に封じたと云われていた。初代の遺言で『もしも我よりも強き呪術を扱える者が現れたとき、その者は今度こそ我が成し遂げられなかった願いを叶えてほしい』と残した。初代は、最高峰の呪術を扱い、それを越える者は昔も今も存在しない。そんな初代が命をかけて封印した、化け物。

「……俺に、できるだろうか」

 ネジは呟いた。また生ぬるい風が吹く。

(いや……やってみせる)

父、初代、一族の悲願を。己が叶えてみせよう。ネジは懐から数珠を取りだし、印を組んだ。







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