匆忘草
今でも元の恋人を愛している俺の恋人は、里を去ろうとする恋人に花を貰ったと云う。その花の名前は、匆忘草―――…
その花の花言葉を知ったら、恋人は俺ではなく元の恋人の所に帰るだろう。
□ □ □「…キバどうしたんだってばよ?」
不安に考え事をしている俺を、ナルトが呼んだ。その明るくも不安気な声に、俺は慌てて意識をナルトに戻した。
「…や…なんでもねぇ。ちょっと考え事しちまった」
「そっか、ならよかったてばよ」
ナルトはニッコリ笑う。
「…なぁ、それよりナルト…」
「ん?」
無邪気な残酷。
「……匆忘草の花言葉、知ってるか?」
「ふぇ?」
ナルトの顔が、少し曇った。
「……知らねえけど」
「そうか、なら教えてやんよ」
もしかしたら、もう抱きしめる事が出来ねぇかも知れない。俺は最後を覚悟してナルトを抱きしめた。
「花言葉はな、“私を忘れないで”…それが…サスケの伝えたかった言葉なんじゃねぇの?」
…ナルトは、今俺の胸の中で何を考えて、どんな貌をしているのだろう。きっと意味を理解していない。
□ □ □
最愛の恋人を残してきたサスケは、さぞ辛かっただろう。そして最愛の恋人に置いて行かれたナルトだって、本気で辛かっただろう。
でも…
ずっと愛してたナルトを横取りされて、あげくに捨てられたナルトとやっと恋人同志になれたのに、結局一番にはない俺は…誰よりも辛い。
□ □ □
俺はナルトが俺の言葉を理解するまでは、ずっとこの華奢な体を抱きしめていようと思った。でも、俺の言葉の意味を、ナルトが理解した時はきっと…
俺の腕の中にはもう、恋人はいない――――――…
end
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