水の中の少年
あいつは、綺麗な水の中に暮らしている。否、綺麗な水の中とは、少し語弊があるかもしれない。
綺麗な水の中じゃ、ない。あの池の水は、あいつが暮らすことによって、綺麗になるのだ。今まではてんでただの池にすぎなかったあの水処が、綺麗に見えるようになったのは数週間前。たしか俺が、死んだ鳥を池に鎮めようとした晩だった。あの日は月がキレイで、死んだ鳥の羽を闇の中に鮮明なほど白く浮きただよわせていた。
「じゃあな、不幸な鳥。次は、星に生まれるといい」
俺は、水面にあらかじめつんでおいた月下美人の花を浮かばせると、その隣から小石をくくりつけた鳥をゆっくり沈ませた。
鳥は、一瞬だけ花に口付けるように浮かび、すぐに水中へ沈んでいく。俺はその深く落ちていく鳥を、目を細めて眺めていた。
一度は大空を飛んだ鳥が、死ねば黙って水の中に落ちていく。哀れで皮肉だな、なんて考えが脳内をよぎった。
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