お前がこれ以上恐がらないように。 そう言って頭を撫でたあの人の存在一つがこころに残っている。実際を言うと顔はあまり覚えていない。薄情?ううんだって覚えておくには余りに悲し過ぎたから。背中の広さはきっと今の私と同じくらい。最後に見た彼はとても赤かった、昇る太陽のように。 「――かぐら」 ビクリと身体が揺れて、落ちるような錯覚と共に目が覚める。 銀ちゃんの眉間が険しくなっていたのは、押し入れの襖を私の足が貫通していたから、…だと思ったけど、どうやら違ったらしい。 わたしの知らない内に勝手に眦から零れ落ちて、無遠慮に頬を濡らす液体を拭ってくれる指が殊更に優しかったの、きっと心配を掛けた。 「うなされてた?」 「ああ、地震かと思うくらいにな」 意地悪く笑う貴方が愛しい、のに。 わたしの血が騒ぐのよ、予感にも似た衝動が伝えるの、そろそろおしまいだって。ゆっくりゆっくり、わたしを絡めとる赤い糸。この世界にはどうしようも無いことがあるって知ってた?世界は二者を選べない、だから行かなきゃ。わたしは彼の人の世界にならなきゃいけないの。 080408 *ブラウザバックでお戻り下さい* [グループ][ナビ] [HPリング] [管理] |