「いっそ一息に落ちて仕舞えば、この桜という花も少しは美しくなれますのに」
前を歩くクラスメートの呟きに少女は足を止めて無造作に桜色を仰ぎ見る。
はらはらと舞い散る花弁は別段不快を誘う風な様相でも無く、それでなくとも風流に疎いトーコは単純に桜は美しいものだと認識していたから、彼女の言葉にごとりと首を傾げた。
「今は綺麗じゃないってことかね」
「醜悪ですわ、見るに耐えない程」
戻した視界の先で、切り揃えられた長い黒髪が揺れる。
「虚勢と脆弱が過ぎて、まるでわたくしのようです」
「言ってる意味がわからないよ、ゲッカ」
「理解らないことを判っているから、貴女にお話しているのですわ」
「ふーん」
「さ、遅刻してしまいますよ、皇さん」
歩みを止めぬままで此方を振り返るクラスメートの規格笑顔に、傾いでいた首を元に戻した。
革靴の下で潰れる花弁はそれでも桜だった。
080322
君の笑顔は大抵が嘘であるけれど、それでも確かに君だよ。
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