桃地に猫柄をあしらったパジャマに赤い半纏。 白髪頭が風に揺れる。 少女はジャングルジムの上に座る青年を見上げて。 青年は夜の空を見上げていた。 「なにしてるの」 「空を食べているのさ」 「空っておいしい?」 「味はしないね、空だもの」 「ふーん」 「君はどうしてこんなに寒い中、裸足で立っているの?」 「慌てていたに違いない」 「愉快な子だよね」 「トーコだからね」 まるで煙の様に不確かな真白い衣服。 金の髪が風に揺れる。 青年は少女を見下ろして。 少女は月を見上げた。 「トーコは僕が見えるの」 「見えたら可笑しい人?」 「いいや、見えなくても君は可笑しいよ」 「そか、じゃあ見えても見えなくても変わらないのか」 「そういう事になるのかな」 「どうせすぐにわすれるしね、なにも変わらないんだよ」 「それは悲しいね」 「悲しくないよ」 「僕は悲しいよ」 「でもトーコは悲しくないよ」 「そうだね、去って行くものは悲しくないのかもしれない」 「トーコは何処にも行かないよ」 「君の記憶は行ってしまうんだろう、僕も、君ですらも置いて、遠くの遠くへ」 公園。 ブランコ。 ジャングルジム。 遠くで何処かの犬が鳴いた。 「かなしいね」 少女には青年の存在の一つですら理解出来なかった。 月がやけに遠かった事だけが彼女の中に小さく残った。 071109 トーコと仙人 *ブラウザバックでお戻り下さい* |