企画提出
※歴史人物と仏が絡んでおりますので、苦手な方はお戻り下さい
ふわふわ。
きらり。
白くコケティッシュな花が一輪。
風に吹かれ、さややと揺れた。
「遅いです。」
少女は凛とした声でキッパリ告げた。
「すみませんね。とっておきのマダムをほったらかしにするなんて」
「当然です。あの嫌で面倒なデュ=バリーなどがやったならば足早にこの国から出なければならなかったでしょうね。」
俺の話しをさえぎり、少女はつらつらと楽しげに小さな口から言葉を綴る。
「ご冗談を。マダム。」
俺は笑う。
彼女は楽しいおしゃべりが大好きだ。
「あら、ならば何故遅れたのかしっかり理由を話してくださるんでしょう?」
来た。
「無駄話はダメですよ。今は勉学の時間ですマダム。メルシ様にも言われております。」
「大丈夫よ。メルシは優しいもの。ちょっと面倒かも知れないけど。」
スパンと返される言葉。
それは彼女の勘の良さと利発さがありありと見られる。
「ですが…」
「貴方は私の国でしょう。何か文句があって?」
正確にはまだ貴女は王冠を掴んではいないのだけどな。
こう言われては仕方ない。
「わかりましたマリー。少々お話に興じましょう。」
俺がそう言うと、まだ幼さがずいぶん残る最高権力者にすこぶる近い“上司”は、
「やったぁ!今日はどんなお話をしてくださるんでしょう?」
ぴょんぴょんと軽やかにフリフリしたドレスの裾を少しつまんで跳ねた。
華奢で豪奢。
可憐でコケット。
俺の王女さま。
マリー=アントワネット=ジョゼファ=ジャンヌは楽しげにその灰色がかった金髪の髪をふわりと払い、俺にマリンブルーの瞳を向けた。
3年前−
その少女は川の向こうからやって来た。
白く滑らかな質素だが、上品な召し物。
飾らない程度に花がデコレートされた帽子を被り軽くウェーブした金髪をふんわり隠す。
右手には、同じように上品な燕尾服を着込む黒髪の男。
彼女をエスコートする姿はこちら側から見てもうっとりするほどだった。
「それではマリー。」
男が言う。
「わかりました祖国、オーストリア。」
少女は彼の手を放し、急ごしらえの小屋の中へ消えて行く。
「やぁ。坊っちゃん。」
「フランシス。」
俺はローデリヒにやっと声をかける。
すると向こう側でローデリヒは少し笑い、俺の声に応えた。
「なかなか、麗しいじゃないのお前の所の姫様は。」
「当然です。私がしっかりとお守りしてきたのですから。」
言うねえ。
と俺が答えると小屋からこちら側に女中たちが出てきた。
こちら、フランス側の女中たちが。
次いで。
「ようこそフランスへ。マドモワゼル=マリー。」
出てきた少女はドレス、ペチコート、靴、レース、リボンにいたるまで全てフランス製の物に満たされていた。
俺は跪き片手を彼女の正面へ。
彼女は俺の手に小さな右手をそっと置くと、
「よろしくお願いします。フランス。」
とたどたどしいフランス語で微笑んだ。
俺は手に一度キスをすると彼女をエスコートするために立ち上がった。
“頼りましたよフランス。”
祖国を振り返ってはならない少女の代わりに、俺は彼女の祖国の目から強い思いを受け取った。
「ねえフランス!聞いてます?」
「え、あ、ああ。すまないねマリー。」
「もう!まだベッドへ行く時間ではないですよ!」
「ごめんごめん。」
俺は苦笑しながらただ謝る。
美少女の機嫌を二度も悪くするとはなんたる不覚。
美と愛の伝道師であるお兄さんの名が廃る。
とかなんとか考えているとマリーはぷうっと膨らましていた頬を戻し、ぱっと笑顔になった。
「そんなことより!」
彼女はコロコロ感情が変わる。
非常に可愛らしく愛らしいのだ。
「パリの話です!」
彼女はとびきりの笑顔になった。
「先日のパリ訪問。あれはなんだったのでしょう…」
「おや、不満だったのですか?」
「そんなことがあるわけありません!お馬鹿さんが!」
ぷりぷりと憤る姿は少し彼女の祖国に似ている。
「私は生きてきた中で一番の感動を受けたのです。」
彼女は語る。
「パリのなんときらびやかなことだったのでしょう。しかも、あの善良な民衆の皆さんときたら!ローデリヒだったらきっと頭を抱えていたでしょうね!なんで民衆までこんなに派手な歓迎に手を貸すのでしょうとか言って!」
微笑む彼女の顔はキラキラ輝く。
「それではマリーは民衆の事が好きになれましたか?」
「もちろん!」
間髪を入れずに叫ぶ。
「私の心、地位は民衆の為にあるのだということ。ママンには手紙でもうたくさん話したの。ローデリヒも喜んでくれたわ。」
少女は素直で。
「では私の事は?」
少し試してみたくなった。
きょとんとなるマリー。
彼女は自分の祖国、オーストリアのことをローデリヒ=エーデルシュタインの名で語る。
俺の事はまだ“フランス”だ。
「俺の事はまだ好きではないのでしょうか。」
もう一度聞いた。
陽気なオーストリアの少女は少し考えて、
「好きですよ。」
とだけ言った。
非常に不思議そうに。
「私はあなたの王太子妃。何故あなたを嫌いになぞなるのでしょうか。」
私はあなたのために生きているのです。
その姿は凛としていて。
まるで、この国の行き先を不安に思わせなかった。
この国にはマリー=アントワネットがいる。
後年、そう語られると確信できる器を持つ少女がそこにいた。
「ですから!」
パン!
と手を叩く。
俺は少なからず驚いた。
「私は民衆の誰しもに好かれる王妃になりたいのです!民衆の誰もが笑顔になれる国、それがフランス。貴方だということを誇りにしたいのです。」
その為に。
「私と共にいてください。フランス…いえ、フランシス=ボヌフォア。」
すっと伸ばされたマリーの手をそっと掴む。
「もちろんです。」
そう言い、手の甲にキスを落とす俺を満足そうに見つめる少女。
その日の夜、フランス王ルイ15世は崩御し新たに息子のルイ16世が国王となる。
マリー=アントワネットはとうとう、フランス王妃という一流の金細工に施された王冠をその手に掴んだのだった。
17歳、最後の夜でした
(17歳パリ訪問)
(18歳フランス王妃となる)
(38歳断頭台へと登る)
(1人の王妃は軽やかに)
(その運命を受け止めた)
・・end・・
どこかで繋がる見えない糸様に提出させていただきました、フランス×マリー=アントワネットです。
タイトルに沿えてなさすぎる感に私涙目ww
素敵な企画を見つけて飛び付いてしまったばっかりに…!
実は私はマリーがすごく好きです。
今回じっくりと彼女のことを調べていただきましたが、実に彼女の生涯はドラマチックで素敵です。
彼女は民衆を愛していた。
しかし、努力をしなかった。
そこが、唯一の残念な点ですね。
彼女がヨーロッパの女帝になれたならば世界はだいぶ違ってたのでしょう。
少々というか多分に捏造を含みました。が、
これだから歴史は大好きです←
主催者様、本当にありがとうございました!
10/05/17
[管理]
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