[携帯モード] [URL送信]




いきなり頭をなにがとてつもないものでガンと叩かれたような衝撃、とでもいうのだろうか。だけれどもそれだけだったら頭の痛みだけですむだろうに、今はやっぱり胸が、チクリと痛む。
どうしてこんなことになったのかと、少しだけ冷静になって考えてみると、最終的には私が悪いのかな、なんて思いがちになる。だけど相手ももう場数をふんでいるであろう、中学3年といえど、一応、オトナなのだと思うから、我慢とかいうものを知っていてほしかったというか、当然のように知っているんだと思っていたんだけど。


「柳、どいて」

『嫌だと言ったら』


この人はこうも我が儘で、子供のような人、だったんだろうか。もっといつも気を張り詰めているような、威厳とか持ってるような、男らしさとかもあわせ持つ人、だと思ってたんだけれど。でもそういう人に限って、いざって時には怖くなったりするとか、よくある話だと思わなくもないけれど。


「嫌じゃなくて、のけて」


今私は柳に壁まで追い詰められ、挙げ句の果てには両手を壁につかれて逃げるに逃げられないという状態。それに柳は背も高いし、そこそこの背丈しか持ち合わせていない私にとっては威圧感も、 凄い。どうしてこうなったかまた少しだけ冷静に考えてみたら、やっぱり私のせいであると思った。早い話、私たちは付き合いをしている、いわゆる世間一般的なカップルなわけであるけれど、あるけれども、キスの1つもしたことがない。多分、否確実にそこだろう。柳はそんなことをしたいという素振りをいつも見せているわけでもなく過ごしていた。ただただカップルという付き合い方になる前と同じ、いつものように、いつもの柳を過ごしてきた。私も自分からせがむようなことをせず、私も私でただただ普段と変わらない私を過ごしてきたのに。だが昨日、柳はいきなりキスを飛び越えて私と交わりたい、いわゆるセックスをしたいと言い出したのだ。いきなりでしかも直球に加えて真顔で言われた私は慌てないはずもなく、逃げに逃げまわっていたのだが、今、捕まってしまったというわけで。だから私が悪いというば悪いのかもしれないけれど、やっぱり今この状況は私が悪い悪くないに関わらず私が危ないっていう状況なわけで。


「ね、キスでいいじゃん」


初キス、といって苦く笑うと相手の柳はまだまだ真顔で私を見下したような冷めた目で見下ろしてくる。少し、ドキッとした。 何にドキッとしたかはよくわからないけれど、カラダの中にドキッとするような何かがするりと入り込んできて、暴れている。否、もぞもぞとしている。嗚呼ヤバい私ってマゾヒストだったんだとか少しながらに思ったりしたけれど、そのドキドキに加えて変な汗が流れてきたような気がした。何の汗だろう。カラダが危険を感じているのだろうか。カラダは正直とは、こういうことなのだろうか。これは、危ない、と。
少しの抵抗と、ほんの少しの期待みたいなドキドキが私を交差する。むしろこのままなんて少しでも考えるような余裕を見せたなら、きっと柳は私の心をも読んでしまって、まあそういうことになってしまうのだろうけれど。こんなんじゃ嫌だし、いろいろとまずい。


『キスなら、いいんだな』


そういって深いなんとも言えない沈黙の空気を柳の通る声がさいたら、私の顎を細くて綺麗な柳の指がクイッと持ち上げる。身長差があるからだろうか、柳が必要以上に私の顎を持ち上げているのだろうか、息がし辛くて、苦しい。『苦しいか』そう言って口の端をいやらしく上げて笑う柳の目は、全く笑ってはいなかった。酷く綺麗な顔だった。今までに見ない綺麗な柳がここにあった。 突き刺さるような鋭い目線と、自分のおかれている状況に羞恥心が煽られる。頬が赤く染まっていくのが面白いくらいわかる。『自分からキスがいいと言ったクセに恥ずかしいのか』冷たい言葉を浴びせられる。目元が熱くなるような感覚に襲われる。今も苦しいのに、柳はまた顎の角度をさらに上げる。自分の息が荒くなったのがわかる。いろんな思いが込み上げてなんだかわからない涙が目を潤ますのもわかる。それでもずっと、柳の目は私を捕らえたままで、ずっとずっといつもよりも綺麗な柳がそこにいるのだ。
柳の唇が私の虚ろであろう目をした瞼に軽く当たった。頬に流れた涙の感覚があった。


突き刺さる
(柳の目が、私を突き刺す)



2008/02/08 (C)mika. 






 


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[グループ][ナビ]
[HPリング]
[管理]

無料HPエムペ!